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【高知グルメPro】四万十の山間で心穏やかにいただく小麦香る一杯「中華そばKobi」フードジャーナリスト・マッキー牧元の高知満腹日記

この情報は2024年11月3日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツにうどん、居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすフードジャーナリストのマッキー牧元さんが、高知の旨いお店や生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は四万十市の山あいで中華そばがいただける「KOBI」にお邪魔してきました。

料理というものは,心がささくれだった時に食べては,おいしくない。

心が穏やかで、安寧な状態の時に食べてこそ、真味に到達する。

そのことをこの店で教わった。

店は、四万十川にかかる岩間沈下橋の近くにある「中華そば Kobi」。

山々に囲まれ、時折車が走り去る街道に、ぽつねんと建っている。

周りに飲食店などない。

駐車場に車を停め、店に歩いて行くと、小鳥たちの鳴き声に包まれた。

木造平屋の一軒家である。

店内には、フィオナ・アップル の歌声が静かに流れていた。

女性シンガーの歌声と鳥のさえずりが、呼応する。

ラーメン屋に入って、こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてかもしれない。

メニューは、「中華そば」、ネギのみのシンプルな「かけ中華そば」、冷たいそばと書かれた「ざるそば」、「釜玉そば」である。

外を眺めるカウンター席に座り、そばを待つ。

山々を眺めながら、静かに待つ。

もうこれだけで、心が整ってくる。

カウンターの隅に置かれた、箸置き、胡椒挽き、キノコ型の調味料入れでさえ、愛おしい。

「かけ中華」が運ばれた。

白い丼に茶色のスープが張られ、細麺がきれいに整列しながら横たわっている。

中央には、細ねぎの小口切りが盛られていて、麺の薄黄色と対をなして美しい。

あたりの景色の邪魔をしない、すっきりとした姿である。

スープを飲む。

コックリとした醤油味の旨味が広がり、胃の腑にゆっくりと落ちていった。

麺をすする。

スープの滋味をからめながら登ってきた麺が、唇を揺らす。

細い細い麺に触れて、唇が喜んでいる。

噛めば、小麦の甘い香りが漂った。

この「かけ中華」は、究極の選択ではないか。

そう思わせる、純潔な味わいである。

麺の味がよくわかり、スープと麺の蜜月を邪魔するものはなにもない。

都会で食べるより、舌や鼻の感覚が研ぎ澄まされて、味わいや香りを綿密に受け止めているように思う。

都会のラーメンにありがちな、強烈な「うまい」ではない。

何度食べても飽きがこない「うまい」である。

次に「ざるそば」が運ばれた。

皿に敷かれたすのこに中太麺が盛られ、手前にはチューシューが二枚配されている。

右横の小皿には、シナチクと煮卵、奥のそば猪口にはつけ汁が注がれていた。

まず麺だけを、つゆに浸けてすする。

これはたくましいコシである。

30回ほど噛んで、ようやく口の中から消えていく。

すごい腰  中太麺,シコシコと噛む噛む喜びあり。

シコシコ、シコシコ。

噛む、噛む。

噛む喜びが湧き上がってきた。

途中チャーシューを細く切って、麺と合わせたり、シナチクと一緒にすすってみたり、卵をからめたりするのも楽しい。

次は「釜玉」が運ばれた。

白い丼に麺が盛られ、上には生卵の黄身を中心にして、周囲に青ネギと白ネギの刻んだもの、チャーシュー1枚、チャーシューの刻んだもの、高知県民のソウルフードの山菜・イタドリが配されていた。

このチャーシュー1枚に、刻みという配慮が嬉しい。

麺と馴染む感じと、単体で食べて欲しいという気持ちからだろう。

かけつゆを垂らし、全体をよくよく混ぜて、食べ始めた。

麺は、ざるそばより太い麺である。

平打ち太麺で、よれている。

その唇触りがいい。

こいつもシコシコと何回も噛んで、ようやく喉に通っていく。

その凛々しいコシと具材が、口の中で踊るのが楽しい。

途中「激辛」と書かれたラー油をかけてみた。

油のコクと辛味にまみれても、なお麺の甘い香りが立ち上ってくる。

三種類の蕎麦を食べ終えて、すっかり気持ちが充足した。

店主の大高達人さんは、北海道から移住された方である。

スープは、四万十鶏をベースに、地元の西土佐産の干し椎茸と野菜、宗田節から取られているという。

店名は古くて美しいという意味から「Kobi」とつけられたと聞いた。

ラーメンは新しい。

だがすでに、古くて美しいものと同じく、自然で落ち着き、静かで柔らかい美しさが宿っていた。

高知県四万十市西土佐岩間305-6「中華そばKobi」にて