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住宅街でひっそりと明かりを灯す予約のみの旨き料理店「よるめし はらいそ」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2022年4月24日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、住宅街で静かな時間とともにいただく料理の数々「よるめし はらいそ」を訪ねてきました。

その店は、閑静な住宅街の中にひっそりとあった。

いや、飲食店というより住居である。

門から中庭を覗くと、飲食店らしい雰囲気が少しあって、躊躇しながら歩みを進め、ガラス戸を開ける。

「いらっしゃいませ」。

その途端、柔らかい女性の声が響いて、安堵した。

店の名を「よるめし  はらいそ」という。

以前は、同じく高知市の柳町で店を10年やられていたが、去年の11月から旭にある実家を改築して始められた。

女主人一人だけの店である。

店に入ると土間があり、可愛いテーブルが置かれている。

奥に進むと、床の間を備えた立派な座敷があり、そこでお食事をいただくこととなった。

前菜の盛り合わせが運ばれ、大きなちゃぶ台のような、丸テーブルに置かれた。

四種類のバリエーションにとんだ前菜が、並べられている。

「土佐鴨ロースとせとか、フルーツほおずき、丹波心地の玉子焼、紅菜苔白あえ」

どれも優しい味わいで、店主の仕事への想いが伝わる。

特に白和の豆腐が、丸い甘みを持っていて、心がほっこりとした気分となっていく。

次は椀ものが運ばれた。

「蓮根まんじゅうのお椀」で、丁寧にとられた出汁の良さが光る。

蓮根の穏やかな甘みと海老のほのかな甘み、そして桜海老の香りが響き合う。

秘めやかな店の雰囲気と共鳴するような、椀ものである。

続いてのお造りは、キハダマグロのトロのヅケと、炙り鯛の桜塩ときた。

皮付きで炙った鯛の、皮下にあるコラーゲンのうまみが酒を呼ぶ。

また、マグロは実に滑らかで、じっとりと乗った脂が、舌に同化するかのように溶けていく。

もう、これですっかり気分が良くなった。

次はなんだろうかと、気分がどんどん前のめりになっていく。

「うなぎと京芋のあんかけ」が運ばれた。

ふんわりと蒸されたうなぎの下には、茄子と京芋が隠れ、上には水菜が飾られている。

どこまでも柔らかきうなぎの食感と、くたくたに炊かれた茄子や、やや硬めに仕上げた京芋の食感の対比が美しい。

中でも茄子の甘みに目を丸くした。

次は「新玉葱と帆立の豆乳グラタン」である。

ああ。玉ねぎがトロトロで美味しいこと!

繊維をなくした玉ねぎの甘みが舌にしなだれて、目が細くなる。

お次は「原木椎茸と水だこ土佐酢」である。

玉ねぎの甘みをいったん切る、料理の流れがいい。

タコを噛めば、クリっと弾み、椎茸を噛めば、香ばしさが鼻を抜けていく。

そして、土佐酢と椎茸が誠に合うのだな。

そこへ燗酒を流し込めば、グッと夜が深くなる。

最後は、強肴で、「土佐あかうしとアスパラガス 蕗のとうみそがけ」が運ばれた。

赤牛は力強く、噛んでも噛んでも味が薄くならずに、最後の小片まで味が継続していく。

筍とアスパラ焼きの添え物も心憎い。

最後のご飯ものは「鯛だし温麺」だった。

鯛出汁の味わいが優しく深い。

なにか、店主の誠実が滲み出ているような出汁である。

甘味の和菓子、桂の蔵出し、吟醸カステラとコーヒーをいただきながら、今夜の時間を感謝した。

2時間ほどの食事であったが、4時間ほど寛いだような気分がある。

お一人でやられているので、店は予約があった時にだけ開けるのだという。

コースオンリーだが、「お好みにあわせて事前に言ってくだされば、いかようにもアレンジします」と、店主は柔らかい口調で言われた。

また季節を変えてこよう。

ああ、そう言えば店名の由来を聞くのを忘れた。

「はらいそ」とは細野晴臣のアルバム名にあったので、そこから取ったのだろうか?

意味はポルトガル語でパラダイスである。おそらくそうだろう。

そう思いこみながら、今夜過ごした、静かな静かな楽園を後にした。

 高知県高知市赤石町「よるめし  はらいそ」にて