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【高知グルメPro】高知の繁華街で半世紀 独創的なトーストと誠実さに溢れる喫茶「ラ・メール」フードジャーナリスト・マッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2024年10月20日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツにうどん、居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすフードジャーナリストのマッキー牧元さんが、高知の旨いお店や生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は高知市の繁華街・帯屋町で半世紀にわたって地元民に愛されている喫茶「ラ・メール」にお邪魔してきました。

細長い店内に入ると、常連の紳士たちがくつろいで、談笑されていた。

テーブルに置かれたレトロなスタンドや壁のライトから放たれる灯りが、空間を和らげている。

生花が飾られたカウンターの中では、老主人と若女将が働かれていた。

ここは半世紀以上に渡って、愛されてきた喫茶店「ラ・メール」である。

ご主人の島本昌城さんは、ここ高知市の繁華街の中心エリア帯屋町で営業して55年、移転前から数えると60年前に店を始められたという。

この店の暖かい空気感が、日常の慌ただしさから解き放ってくれる。

だが、人を引き寄せるのは、そんな雰囲気だけではない。

ここでは、様々に工夫されたドリンクとトーストで楽しませてくれるのだ。

そんなひとつ、「エルダーフラワーソーダ」が運ばれた。

飲めば、炭酸の後から柔らかく甘い香りが漂う。

甘さは控えめだが、花の香りが柔らかい気分にさせる。

「レモンジュース」を頼めば、喫茶店でよく出されるそれとは格が違った。

レモン自体の旨みが伝わってくるではないか。

たまらなく自然なのである。

やがて創作のトーストが次々と運ばれた。

「イタリア」は、マスカルポーネチーズ、グレープフルーツ、マーマレードが乗ったトーストである。

チーズのコク、グレープフルーツの甘酸味、ブラッドオレンジのマーマレードの甘みが、パンの間で溶け合う。

マスカルポーネを薄く引いてあるのがいい。

ただ思いつきで挟んであるのではなく、おそらくそれぞれの量を試行錯誤を重ねた上で、最適に調整してあるのだろう。

「リンゴじゃむカルバドス風味」は、リンゴの角切り、カマンベールとバターにリンゴジャムを挟んである。

このリンゴジャムがいい。

リンゴとしての甘酸味がしっかり生きていて、砂糖の力に甘えていない。

聞けばレモン一個を使い、隠し味にお酒を入れているのだという。

これもくせにななりそうだなあ。

「あんパン」とは、あんこを乗せたトーストである。

食べて目を丸くした。

なにより、あんこが美味しい。

豆の香りが生きていて、穏やかな、丸い甘さがある。

心が落ち着く味わいのあんこである。

聞けば自家製だという。

砂糖を3種類使い、季節によって砂糖の甘さや配合を変えて、一週間に1キロ炊いているのだという。

恐るべし「ラ・メール」。

世の中広しといえども、どこに自家製あんこを毎週炊いている喫茶店があろうか。

すべてのトーストに、他の店にはない創意工夫がある。

そして、相当に試行錯誤を繰り返して完成したのであろうことが想像できるのは、すべての味が落ち着き、馴染んでいることなのであった。

「トーストの組み合わせを考えるのは遊びみたいなもので、今でも色々なジャムを探したりしています」。

と島本さんは笑った。

長年やられてきた島本さんだったが、三年前に、山中香さんという方に、店の運営をバトンタッチされた。

旦那さんが上の階でバーをやっておられ、バーと喫茶店の共通のお客さんから「島本さんが辞めるなら、あんたらがやりなさい」と言われ、受け継ぐ意思を固めたのだという。

「マスターから受け継いだとはいえ、まだまだ学ぶことばかりです」。

そう山中さんは言われた。

今は短い時間の営業となったが、島本さんが始めた開業当時は、朝9時から夜12時まで営業し、元旦も店をあけていたので365日営業していたという。

まさに誠実そのもの方である。

このトーストの類い稀な味は、その誠実が産んだ味なのである。

高知県高知市帯屋町1-14-18「ラ・メール」にて