高知家の◯◯高知家の◯◯ 高知県のあれこれまとめサイト
高知県のあれこれまとめサイト
  • facebook
  • x
  • instagram
  • youtube
 

【高知グルメPro】フォーにもトムヤムスープにも国境を超える懐かしさが宿るタイ料理 高知市「ワルンカフェ」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2024年3月17日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすフードジャーナリスト「美食おじさん」ことマッキー牧元さんが、高知の料理店・生産者さんをめぐる「高知満腹日記」。今回は高知市で30年以上にわたってエスニック料理が人気の「ワルンカフェ」にお邪魔してきました。

住宅街に一軒、赤と白のひさしを出した店があった。

ひさしの下は、半透明なビニールシートが下げられていて、中の様子はうかがい知れない。

その小ぶりな店構えと雑多な感じから、駄菓子屋かなと思っていたら、ここが飲食店です、と案内してくれた人が言う。

「ワルンカフェ」と言う名前の、エスニック料理店らしい。

高知では、タイ料理やベトナム料理を食べるのは至難の技である。

食べログで調べても、タイ料理が3軒、ベトネム料理が2軒と、他県に比べてかなり少ない。

しかし、この「ワルンカフェ」は、古くから市内に根づいて、ファンが多い店だという。

女性店主が東南アジアに旅して現地の料理にハマり、始めたのがきっかけだった。

店内は、現地で調達されたのであろう器や調度品などが所狭しとおかれ、簡易的なテーブルには、持ち手部分が赤い木の箸が用意されている。

いかにも東南アジアの食堂といった風情があり、これからの時期なら、ひさしの下の席で食べると気持ちいいだろうなあ。

手書きのメニューを見れば、タイ、ベトナム、フィリピン、チベット、香港などの料理が載っている。

本日の日替わりご飯として、おかずのせご飯、コムビ、タイ風さつま揚げ、ベトナム風豚と春雨煮、揚げ豆腐、トムヤム餡掛け、野菜炒め、アチャールという、万国博覧会状態のご飯に惹かれたが、これはすべての地域を抑えねばと、タイ料理、ベトナム料理、チベット料理、フィリピン料理を頼んでみた。

さらにメニューの一番下に、「トムヤムスープセルフサービス100円」と描かれているのを発見した。

これは嬉しい。

厨房前のポットからスープを注ぎ、料理を待つ。

最初は「タイ風魚介とビーフンのココナッツスープ」である。

アサリ,エビ、魚のほぐし身が入った。ココナッツの甘い香りが生きたスープであった。

一口食べて、まろやかな味だなと思ったが、甘かった。

その後から、辛味がやってくる。

口腔内をキックする、強烈な辛さである。

ココナッツで穏やかさを見せながら、殴ってくる。

この二律背反的な対比にハマる。

例えれば、頬を優しく撫でられながら、引っ叩かれるような体感である。

人は自分の中にSとMが内在していることを自覚する瞬間であった。

次はフィリピン風チキンとボークの煮込み「アドボ」が運ばれた。

フィリピンを統治していたスペインの肉料理“アドバード”を基にした代表的な家庭料理で、酢を主体とした調味液に肉を漬け込んでから煮込んだ料理である。

これを一口食べた途端に「ご飯ください」とお願いした。

濃い味わいの中に酸味があって、もうご飯が進んで止まらないのだな。

次はベトナムの汁麺料理で、「野菜のフォー」が運ばれた。

淡い味わいで、濃いアドボや辛い煮込みを食べた後の舌を、いたわってくれる。

ほっとした気分になったところへ餃子が登場した

チベット風揚げ餃子の「モモ」である。

ピンポン球より二回り大きい球形の餃子で、カリッと香ばしい皮が弾けると、たっぷり詰められた野菜の餡が現れる。

これも穏やかな味わいである。

女性店主に聞けば、もう34年もやられているのだという。

「当時はタイ料理などどこにもなかったので、お客さんが、これはメニューにはカレーと書いてあるけど、バーモントカレーとは違うと言って残されました」。

そう言って笑われた。

東京の「カルマ」と言う民族料理店で働いていた関係で興味を持ち、タイやネパール、ベトナムを訪ねて、現地の味を体得していったのだという。

34年前といえば、東京でもそんなにタイ料理店はなかった時代である。

きっと開店当時は、まわりに理解されずに相当苦労されただろう。

だがそんな苦労した気配など店主には微塵もない。

「ワルン」は、インドネシアの安食堂という意味だという。

「また来週インドネシアに行くんです」。

そう嬉しそうに語る店主の作る料理は、やり過ぎない、長年やってきたものだけが会得する安定の味わいがあって、国境を超えた懐かしさまでも宿っているのであった。

高知県高知市越前町1-4-3「ワルンカフェ」にて