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【高知グルメPro】地元愛されイタリアンから人気の和食屋に夜の〆の屋台餃子までそろう「廿代町」のおススメグルメ6選 食いしんぼおじさんマッキー牧元の高知満腹日記セレクション
この情報は2024年3月17日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすフードジャーナリスト「美食おじさん」ことマッキー牧元さんが、高知の料理店・生産者さんをめぐる「高知満腹日記」。今回は高知市で30年以上にわたってエスニック料理が人気の「ワルンカフェ」にお邪魔してきました。
住宅街に一軒、赤と白のひさしを出した店があった。
ひさしの下は、半透明なビニールシートが下げられていて、中の様子はうかがい知れない。
その小ぶりな店構えと雑多な感じから、駄菓子屋かなと思っていたら、ここが飲食店です、と案内してくれた人が言う。
「ワルンカフェ」と言う名前の、エスニック料理店らしい。
高知では、タイ料理やベトナム料理を食べるのは至難の技である。
食べログで調べても、タイ料理が3軒、ベトネム料理が2軒と、他県に比べてかなり少ない。
しかし、この「ワルンカフェ」は、古くから市内に根づいて、ファンが多い店だという。
女性店主が東南アジアに旅して現地の料理にハマり、始めたのがきっかけだった。
店内は、現地で調達されたのであろう器や調度品などが所狭しとおかれ、簡易的なテーブルには、持ち手部分が赤い木の箸が用意されている。
いかにも東南アジアの食堂といった風情があり、これからの時期なら、ひさしの下の席で食べると気持ちいいだろうなあ。
手書きのメニューを見れば、タイ、ベトナム、フィリピン、チベット、香港などの料理が載っている。
本日の日替わりご飯として、おかずのせご飯、コムビ、タイ風さつま揚げ、ベトナム風豚と春雨煮、揚げ豆腐、トムヤム餡掛け、野菜炒め、アチャールという、万国博覧会状態のご飯に惹かれたが、これはすべての地域を抑えねばと、タイ料理、ベトナム料理、チベット料理、フィリピン料理を頼んでみた。
さらにメニューの一番下に、「トムヤムスープセルフサービス100円」と描かれているのを発見した。
これは嬉しい。
厨房前のポットからスープを注ぎ、料理を待つ。
最初は「タイ風魚介とビーフンのココナッツスープ」である。
アサリ,エビ、魚のほぐし身が入った。ココナッツの甘い香りが生きたスープであった。
一口食べて、まろやかな味だなと思ったが、甘かった。
その後から、辛味がやってくる。
口腔内をキックする、強烈な辛さである。
ココナッツで穏やかさを見せながら、殴ってくる。
この二律背反的な対比にハマる。
例えれば、頬を優しく撫でられながら、引っ叩かれるような体感である。
人は自分の中にSとMが内在していることを自覚する瞬間であった。
次はフィリピン風チキンとボークの煮込み「アドボ」が運ばれた。
フィリピンを統治していたスペインの肉料理“アドバード”を基にした代表的な家庭料理で、酢を主体とした調味液に肉を漬け込んでから煮込んだ料理である。
これを一口食べた途端に「ご飯ください」とお願いした。
濃い味わいの中に酸味があって、もうご飯が進んで止まらないのだな。
次はベトナムの汁麺料理で、「野菜のフォー」が運ばれた。
淡い味わいで、濃いアドボや辛い煮込みを食べた後の舌を、いたわってくれる。
ほっとした気分になったところへ餃子が登場した
チベット風揚げ餃子の「モモ」である。
ピンポン球より二回り大きい球形の餃子で、カリッと香ばしい皮が弾けると、たっぷり詰められた野菜の餡が現れる。
これも穏やかな味わいである。
女性店主に聞けば、もう34年もやられているのだという。
「当時はタイ料理などどこにもなかったので、お客さんが、これはメニューにはカレーと書いてあるけど、バーモントカレーとは違うと言って残されました」。
そう言って笑われた。
東京の「カルマ」と言う民族料理店で働いていた関係で興味を持ち、タイやネパール、ベトナムを訪ねて、現地の味を体得していったのだという。
34年前といえば、東京でもそんなにタイ料理店はなかった時代である。
きっと開店当時は、まわりに理解されずに相当苦労されただろう。
だがそんな苦労した気配など店主には微塵もない。
「ワルン」は、インドネシアの安食堂という意味だという。
「また来週インドネシアに行くんです」。
そう嬉しそうに語る店主の作る料理は、やり過ぎない、長年やってきたものだけが会得する安定の味わいがあって、国境を超えた懐かしさまでも宿っているのであった。
高知県高知市越前町1-4-3「ワルンカフェ」にて