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【高知家の〇〇特別企画『高知に来たら必ず訪れたい店』】ここでしか食べられない個性が光るイタリアン「トラットリア トロドーロ」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2023年4月9日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、高知家の〇〇の2000記事公開記念企画「マッキーさんが高知に来たら必ず訪れたい店」の第四弾として、マッキーさんから「変態シェフ」の称号を授かったオーナーシェフが営む高知市菜園場町のイタリアン「トラットリア トロドーロ」を紹介します。

山本修平シェフが作った料理は、丁寧という味が生きている。

山本修平シェフが作った料理は、誠実という味が生きている。

山本修平シェフが作った料理は、個性という味が生きている。

彼は高知という、決してイタリア料理偏差値の高くない県で、「トラットリア トロドーロ」という店を営み、北イタリアの伝統料理を、昔ながらの手間暇かけて、誠実に作っている。

その料理への理解者は多くはいないのに、さらにそこへ自分なりの工夫を加えて、新しい味へと変化させていく。

その姿勢に頭がさがる。だからもう一度行くのである。

前に食べたあの料理は、どうなっているのだろうか。

それが楽しみで、出かけるのである

例えば「ペポーゾ」という牛肉の煮込み料理である。

“Peposo alla Fiorentina”(ペポーゾ・アッラ・フィオレンティーナ)というトスカーナの伝統料理で、牛スネ肉をたっぷりの赤ワインと黒胡椒で煮込んだ料理である。

各地でこの料理を食べたが、山本シェフの作るそれは、より深いコクがあり、口腔内の粘膜すべてに、うま味を伴ったゼラチン質が粘りつく感覚があって、官能的なのである。

聞けば、玉ねぎ、人参、セロリ、そして本来は牛スネ肉のところを、柔らかくコラーゲン豊富な牛ほほ肉に変え、粗く潰した黒胡椒とキャンティで1日マリネするところから始めるのだという。

翌日、すべてをフライパンでよく焼き炒め、柔らかくなるまで煮込んだ後、肉以外をミキサーで回してペースト状にして肉のソースにする。

伝統料理なので重い。

しかし、山本シェフのこの料理は、イタリア料理らしい重さを持ちながらも、軽い後味があって、するりと食べさせ、後に優美な余韻を残す。

なんと素晴らしき改良であろうか。

例えば「リボッリータ」である。

「Ribollita」は、トスカーナ州の郷土料理で、Ri(=再び)bollita(=煮る)、「再び煮込んだ」という意味を持つスープである。

元々は硬くなってしまたパンを入れたミネストローネ(Minestrone di pane 野菜と豆のスープ)を一晩寝かしてから、食べる前に再び煮ることに由来しているのだという。

何しろ山本シェフは、このスープ料理のために、わざわざ塩を入れないトスカーナのパンを自ら焼いている。

東京でもこのスープは食べられるが、パンまで焼いている人はあまり聞いたことがない。

どろりとしたスープを食べると、黒キャベツのかすかな苦味とうまみ。豆の甘み、ふやけたパンの食感に加え、以前より、味がふくよかになっていた。

聞けば高知の潮江という地区の伝統野菜で潮江菜(うしおえな)という山東白菜に似た野菜を入れているという。

潮江菜、パン、玉ねぎ、人参、セロリ、白インゲン豆、黒キャベツが手を結んだたくましさがスープの中にあって、一口食べるたびに、心が満たされていく。

食べながら、愛する人たちのことを思い浮かべ、食べさせたいと願う、そんなスープだった。

北イタリアで、どこにでもある野菜と、余ってカチカチに硬くなったパンの再利用から生まれた素朴な知恵が、高知の食材でさらに生かされる。

その瞬間に出会えた嬉しさに体が震えた。

今回は代表的な二つの料理を紹介した。

次回はそのほかの素晴らしき料理を紹介したい。

高知県高知市菜園場町4丁目「トラットリア トロドーロ」にて