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「こんなうどん他にはない」香川とも博多とも大阪とも違う「麺房 三宅」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2022年11月27日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、高知のうどん屋を10軒以上めぐったマッキーさんが「こんなうどんは他にはない」と言った高知市の「麺房 三宅」を訪ねてきました。

「麵房 三宅」のうどんを知ろうと思ったら、「ざるうどん」を頼まなくてはいけない。

三宅のうどんの魅力を、最も感じられるからである。

では、その魅力とは何か。

芯がないのにコシがある。

柔らかいのにコシがある。

これが魅力である。こんなうどんは他にはない。

高知のうどん屋は、既に10軒以上行ったが、三宅と同じうどんはひとつも無い。

いや、高知だけではない。

うどん県香川でも、博多でも京都でも、大阪でも群馬でも、うどん文化が根付いた各県でも、こんなうどんはない。

一見普通のうどんである。

表面は艶々と白く輝き、啜れば唇をつるんと通り過ぎる。

噛もうとすると、歯はふんわり入っていく。

一瞬、柔らかさを感じるのだが、二回三回と噛んでいくと、うどんはモチモチと歯を押し返してくるのである。

香川うどんのようにゴツゴツではない、優しい抵抗を示すのであった。

聞けばご主人の秋山辰雄さんは、朝5時半には起きてうどんを打つのだという。

5時半に、生地を作り、一旦寝かせる。

寝かせている間に、天ぷら作って、朝食をとる。

8時になると、3回ほどに分けて打ち、寝かせるを繰り返す。

最初硬めに生地をつき、層を作っていくのだという。

つまり生地の層には、火が通りきらない状態を作る。

たくましいコシがある層と柔らかい層が重なり合う、うどんのミルフィーユとなっているわけである。

さらに時間をかけ、熟成させながらやると、芯がないのにコシがあるうどんに仕上がるのだという。

こうして、香川のコシとは異なるうどんが生まれる。

ご主人曰く、水分や薄力粉を変えながら、いろいろやってみたが、この方法に行き着いたのだという。

「手間ひまかけるから、常にいい状態のうどんなんです」

そうご主人は胸を張られた。

その「ざる」は、うずら卵、胡麻、ネギ、天かすとつけ汁が添えられる。

つけ汁につけ「ズズズッ」と、たぐれば、平たい麺が唇をくすぐりながら口に登ってくる。

そしてほんのりと、小麦粉の甘い香りを口の中に広げながら、20数回ほど噛むと消えていく。

だが歯は、その不思議な食感を覚えていて、すぐに次のうどんへと箸を向かわせる。

一旦この魅力に気づいたら、もう抜け出せない。

食感は記憶の底に残り続け、全国で「うどん」という文字を見ただけで、「三宅」を思い出す。

広末涼子が、帰郷すると真っ先に食べにいくというのも納得できる。

ざるで魅力を受け止めたら、「肉おろし」もいい。

たっぷりのネギと胡瓜の細切り、茹で卵、おろし、甘辛く炊いた牛肉。

さらには、おかみさんの秋山ひとみさんが、無添加ルーとミンチ肉、特別にスパイスを調合して作っている、カレーうどんもおすすめである。

辛いが品がいいカレーうどんで、黒七味をちょいとふりかければ、味わいがグッと複雑かつ辛くなり、これまた虜となる。

あるいは「とり天あんかけ」はどうだろう。

この店の出汁の良さを感じるには、このうどんがおススメで、舌をその滋味でしっかり捉えながらも品がある。

生姜おろしをたっぷりと入れて食べると美味しい。

聞けば出汁は、日高昆布と羅臼昆布、メジカ、鯖節を使い、東丸大豆醤油に清酒をたっぷりと入れて作るのだという。

創業して40年、独自の工夫で芯がないのにコシがあるうどんを編み出した名店は、今日も満席である。

 高知県高知市伊勢崎町「麺房 三宅」にて