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【高知グルメPro】地元愛されイタリアンから人気の和食屋に夜の〆の屋台餃子までそろう「廿代町」のおススメグルメ6選 食いしんぼおじさんマッキー牧元の高知満腹日記セレクション
この情報は2022年5月1日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、居酒屋の王道「大衆酒場」を看板に掲げる「珍々亭」で、まけまけいっぱいの焼酎と旨い肴をいただいてきました。
いい居酒屋は、佇まいがいい。
初めて訪れたこの店も、外から眺めた瞬間に「いい店に間違いない」と、確信した。
「大衆酒場」の文字が泣かせるじゃありませんか。
タバコは吸わないが、「喫煙可」と大きく張り紙をしているのも素敵である。
さらにその下には、「COME to Drink and Smork」という張り紙があるのが微笑ましい。
そして「桂月ひとすじ50年」と書かれた庇が凛々しく、なによりも赤字で書かれた「珍々亭」という店名に惹かれる。
「いらっしゃい」。
ガラス戸をガラリと開けると、快活な男性の声に迎えられた。
ご主人だろうか?
お客さんのカウンター席に座って、朗らかな顔で挨拶された。
カウンター内の厨房では、女性二人が忙しそうに働いている。
今夜は焼酎の気分なので、ロックをお願いした。
すると、グラスから溢れそうなほど、なみなみ注いでくれるではないか。
これの光景は酒飲みにとっては、嬉しい。
目尻が下がったのに気づいたのか、店主の親父がいう。
「うちの酒は、まけまけいっぱいだからね」。
「まけまけいっぱい」は初めて聞いたが、なみなみと注ぐことを言うらしい。豪気で酒飲みの高知人らしい表現である。
さあ、何を頼もうか。
初めて訪れる居酒屋では、まず刺身を頼んで実力を推し量るのが王道である。
次にその店のウリというか、他店では見かけない料理とか、店名が料理名になったスペシャリテを頼んでみる。
そういうことで一品目は、「うるめいわしの刺身」といってみた。
一匹分の刺身が運ばれる。
食べれば、実に脂が乗っている。
一切れはおろし生姜で食べ、一切れはワサビでと楽しみながら、まけまけいっぱいの焼酎を飲み干した。
次に頼むべきは決まっていた。
「ちんちん焼きをください」。
なんだかわからないが頼んでみた。
やがて小さなフライパンに入った、お好み焼きのような料理が運ばれた。
聞けば、山芋とすり身を合わせたものを焼いたのだという。
優しいお好み焼きといった味わいで、生姜とネギが入った穏やかな甘みがある出汁につければ、明石焼的雰囲気があってよし。
かたやソースケチャップとマヨネーズにつけてみれば、途端に屋台の気分が漂ってきて、下品な迫力が出る。
それにしても、お客さんが存分に楽しんでもらうためだろう、ソースもマヨネーズも出汁タレもたっぷり添えられる。
これは意外にできることではない。
刺身とちんちん焼きですっかり気分が良くなり、今度は好物を頼んでみる。
「浜あざみの天ぷら」は、サクッと油切れよく揚げられて、噛めば爽やかな香りがする。
これにもたっぷりの天つゆと、抹茶塩に桜塩が添えられる。
こういう気配りが、なんとも嬉しい。
メニューには、早春の味と謳われて、蕗の薹、菜の花、しいたけ、たらの芽、よもぎ、ベビーキャベツの天ぷらの盛り合わせもある。
かなり惹かれたが、おじさんが大好き「ハムカツ」と「タコサンウィンナー」をお願いした。
ハムカツも量が多い。
これまた調味料が豊富で、未だかつてハムカツを頼んで、ソースと辛子、マヨネーズとケチャップが別皿で出てきたことはない。
カウンター席に座りながら、常連客と楽しそうに喋っている、多分ご主人に聞いたみた。
「ご店主ですか?」
「はいそうです。私が継いで50年、店は昭和34年からやっています」。
「もう63年となると老舗ですね」。
「はい。進展なし。微動だにしてません」。
「中で働かれているのはご家族ですか?」そう聞くと、ご主人は言われた。
「はい。娘二人が青春を犠牲にしてやってます」と言って笑う。
昭和18年生まれだというご主人の名前は、長崎俊太さんといい、かいがいしく働かれている娘さんは、うららさんとおおぞらさんというお名前だということだ。
その時不思議なことに気づいた。
いつの間にか奥の席にお客さんが増えている。
このお客さんはどこから入ってきたのだろう。
その様子を察知して、ご主人はいう。
「入口が二つあって、表通りから入ってくるのがフリーのお客さん。横の入り口から入って店の奥に座るのが定連なんです」。
居酒屋は、落ち着くと言うことがもっとも大事である。
そのことを常連さんは知っているのだろう。
横の入口からひっそり入って、静かに飲んで帰っていく。
「お勘定」。
奥の常連から声がかかる。
「2200円です」。
安い。
そして平和がある。
まさにここは、大衆酒場なのである。
高知県高知市本町1丁目「珍々亭」にて