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「高知におぼろ昆布の最高峰があることを君は知っているか?日本人の智慧の集積、おぼろ昆布という食文化を守れ。」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記 その84

       

この情報は2020年1月19日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

創業明治元年、高知市の「泉利昆布海産」を訪ねた。

昆布といえば、福井や富山といった北前船の痕跡が残る土地を思い浮かべるが、実は高知にも古くからの昆布問屋があった。

北前船が活躍していた江戸時代では、北海道で収穫された昆布は、日本海を経て、下関から瀬戸内海を経由する西廻り航路で「天下の台所」大阪、堺に運ばれた。

その関係で、大阪の境には、多くの昆布加工問屋があり、その加工発注先に土佐と和歌山南紀があったという。

おそらく廻船の航路の関係だろうか。

今でも高知と和歌山南紀は、食文化の面でも繋がっているという。

さて、現在七代目の泉谷 伸司さんが営まれる「泉利昆布海産」は、おぼろ昆布が主力商品である。

ちなみに「おぼろ昆布」と「とろろ昆布」は違う。

違いは削り方で、とろろ昆布は、何枚も重ねた昆布の側面を削ったもので、おぼろ昆布は、昆布の表面を薄く削ったものである。

早速そのおぼろ昆布をいただいた。

薄く、薄く、天女の羽衣や羽毛のごときおぼろ昆布は、口の中に入るとふわりと舞って、消えてゆく。

そして口の中には、昆布の旨みがたゆたい、香りが鼻に抜けて行く。

おぼろ昆布は、この儚さがいい。

口に入れると、すうっと消えていく切なさがいい。

それでいてしっかりとした旨みが、長く余韻として残る。

これが北海道産の厳選された、白口浜の真昆布を原料にして、心を込めて削り出した味なのである。

昆布を薄く削って味わう。先人たちの智慧は、素晴らしい。

だが最近ではすっかり見かけることが少なくなった。

作る会社が減っているせいである。

何よりも職人が減っている。

かつて昆布加工業が盛んだった高知でも、職人を雇っている会社は1〜2社で、その職人の平均年齢72〜73歳だという。

職人がいないという事実が、おぼろ昆布という食文化を継続させて行くことへの大きな課題となっているのである。

何しろ昆布を1ミリ以下に削るのである。

七代目曰く、筋のいい子だったら2年で習得できるが、普通は5年かかるのだという。

しかし嘆くことはない。「泉利昆布海産」はそれを改革せんと、職人を全部社員にし、中途入社も募集し、今や平均年齢40数歳だという。

おぼろ昆布だけではなく、だしパックも開発した。

おぼろ昆布削り職人は、ただ薄く削れるようになるだけではなく、やればやるほど奥が深いという。

ベテランが削ると、同じグラムなのに、膨らんでいるといったように、いかに軽やかに削ることができるかは、熟練の腕にかかっている。

また味わいも、表面は酸味が少しあって複雑な味わいがし、中心を削ったものは味がピュアなのだという。

試食させていただいたが、実際に違う。

おぼろ昆布おそるべし。

これをお吸い物に、おにぎりにしたら、どんなに日常が幸せになるかなあ。

 

高知県高知市東城山町「有限会社泉利昆布海産」にて