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【高知グルメPro】四万十町で初めて出会った加圧鍋で茹でるうどん「KOBACO(こばこ)」フードジャーナリスト・マッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2024年9月15日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック。スイーツにうどん、居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすフードジャーナリストのマッキー牧元さんが、高知の旨いお店や生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

四万十町JR窪川駅の近く、周囲に飲食店などなき街道に、その店は、ぼつねんとあった。

店頭には、「釜揚げうどん came again-udon」と書かれた、木製看板がある。

釜揚げとcame againを欠けた、駄洒落が楽しい。

だが、明らかに、隣の「古本」というのぼりの方が目立っている。

「ごめんください」

と言いながら、恐る恐る入っていくと、

「いらっしゃいませ!」

店に入るやいなや、年配のご主人から快活な声が響いた。

どうやら、お一人でやられているらしい。

温かいうどんは、かけ汁の各種と釜玉の各種、冷たいうどんはぶっかけと醤油うどんがある。

おや?店頭に掲げられていた釜揚げうどんがないじゃないか。

壁を見ると、そこには「夜のうどん」という品書きが張り出されており、どうやら釜揚げは夜だけやられているらしい。

だが、それより気になったことがあった。

単なる温麺と冷麺ではなく、加圧温麺、加圧冷麺と書かれているではないか。

うどんを作るのに加圧しているのか?

俄然、好奇心が掻き立てられ、夜だけだという釜揚げうどんを無理にお願いした。

うどんが出来上がるまでの間、冷やした「パリパリピーマン」や、なすと竹輪とミニトマトによる「冷やしおでん」、

「揚げたてじゃこ天」を頼み、待つ。

どれも夜なら、これらでいっぱいやってからうどんを食べたら良いだろうなあ、という酒を呼ぶ味わいである。

ご主人は小部屋に消え、うどん打ちの機械だろうか、部屋からゴトゴトという音がし始めた。

やがて店主がうどんを持って現れる。

そして何かの鍋に入れたかと思うと、シュシュシュ、シュシュシュという音が聞こえ始めた。

ここは圧力鍋でうどんを茹でるのだという。

小部屋のドアに張り紙がしてあった。

「当店のうどんは、圧力鍋で茹でています。茹で時間は通常の2分の1で、表面はニュルのモッチモチです。一度に茹でる量が限られ、お待たせすることもありますが、ご容赦ください」。

全国いろんなうどん屋に行ったが、圧力鍋で茹でるうどんは、初めてである。

加圧温麺の、釜揚げうどんがやってきた。

見た目は普通である。

しかし食べれば、表面は博多うどんのようにやわやわなのに,もちもちと30回ほど噛む。

表情や言葉は優しいのに、芯は強い。

京女のようなうどんである。

書かれているとおりニュルもっちもちのうどんであった。

聞けば、加圧式にすると、コシが出やすいのだという。

長く茹でるともちもち感が強くなり過ぎてしまうため、短い時間で茹でる加圧は最適らしい。

うどんは、前の日に打って一晩寝かす。

店は5年目で、ご主人は、電力会社のサラリーマンを定年でやめられて始められたのだという。

「四万十にうどん屋がなくて、やろうかなと思ったんです」。

北海道産にオーストラリア産の小麦粉を混ぜて、毎日3〜4キロ打つ。

冷たいうどんも食べたくなり、珍しい「煮干しぶっかけ」も頼んでみた。

うどんの上で、煮干が3匹整列している。

冷たいうどんでも、表面は柔らかい。

唇へのあたりがふんわりとしている。

だが噛めば、歯を押し返しながら30回以上噛ませるのだった。

噛んで噛んで、うどんの甘さが出始めた頃合いに、煮干しをかじる。

煮干しの素朴な旨味と、うどんの淡い甘さが出会って、のほほんとした気分になった。

最後に店名由来を聞いてみた。

「小さな店だから小箱ってね。あまり考えてないのよ」。

そうご主人は言って、優しい笑顔を作られた。

まだ頼みたいメニューがある。

「鶏天キムラ君カルボ」の「キムラ君」とは誰だろう。

このコシのあるうどんで、カレーうどんも食べてみたい。

こりゃcame againだな。

高知県高岡郡四万十町本町2-1「KOBACO」にて