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高知の山深いカフェで10年ぶりに再会したファンキーなブルースマンと笑い語らう「Cafe Missy Sippy (カフェ ミシシッピ)」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2023年3月5日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は高知の山間、ファンキーなブルースマンがいる「Cafe Missy Sippy (カフェ ミシシッピ)」で、大いに語り大いに笑ってきました。

高知の山深い田舎に、その男はいる。

絵を描き、唄を作り、ドブロを弾き、歌う。

見栄っ張りで、格好つけで、涙もろく、勝手で、わがままで、頑固で、優しい、男の性根を歌う。

日本で知る人は少ないが、イギリスBBCで生演奏をした男であり、世界中の街角でブルースを歌ってきた男である。

二十歳の頃、スリーピー・ジョン・エスティスのジャケットに痺れ、こんなおじいちゃんになりたいと思い、始めたブルースを、いま日本語で歌っている。

初めて出会ったのは、今から10年前だった。

東京で行われたライブに行き、生で聴きながら恥ずかしくなっていった。

男としての本性を脱ぎ捨てた唄が、人生の無常を突きつけ、どこかでカッコをつけていた自分に気づかされる。

目の前の同い年の男が、とてつもなく格好良くセクシーで、こんな男になりたいと今の自分との大きな距離を感じる。

オープンチューニング特有の重厚な音色に、太い錆声が響く。

腹の底をつかむ歌声は背をドンと叩き、精神の背骨をキリリと正す。

そしてなにより、歌の底に人生の憂いがあって、苦く切ない思いが滲む。

その人、藤島晃一さんはブルースマンであり、絵描きでもある。

一見ユーモラスな絵は、人生なんてこんなもんさと、楽天的な皮肉をくみながら、やはり奥底には静かに佇む悲哀がいて、じっとこちらをにらんでいる。

高知に行ったら、会いに行こう。

そう思って10年、ようやく再会を果たすことができた。

高知で彼が営む、「カフェ ミシシッピ」である。

店はカラフルでファンキーな外観だが、何故かのんびりとした田舎の空気に溶け込んでいた。

藤島さんは、10年前と変わらぬおおらかな態度で出迎えてくれた。

野太く大きな声で土佐弁を喋りながら、高らかに笑う。

自由な人である。

店内には、彼のアートや自らアメリカで撮りためたブルースマンの写真が飾られていた。

ドクロの絵が描かれたメニューを開き、さあ何を頼もうか。

まずは正体不明な「チキンジョージ」だな。

現れたのは、ご飯と鳥の煮込みに、カブ、各種人参、ブロッコリー ロマネスコなどのグリル野菜と、マッシュポテトを盛り合わせたワンプレートである。

スパイシーなチキンの味わいに、ごはんがすすむ。

間に野菜やマッシュポテトを挟みながら食べていくと、気分はアメリカ南部である。

おそらくフランス領だった頃のルイジアナを中心に発展した、ケイジャン料理かもしれない。

チキンジョージの後に、デザートもいただくことにした。

ちなみにご飯もデザートも、奥様の手作りである。

ひとつは「ダッチアップルパイ」である。

リンゴが加熱されているのに、フレッシュ感も残っている不思議なケーキである。

オランダ人のアップルパイと名付けられたケーキは、アメリカに伝わるケーキで、表面にブラウンシュガーとシナモン、砕いたパイをのせたアップルパイで、おなじみのアップルパイより甘さがまろやかで、ジャリジャリとした食感も楽しい。

続いてこれもアメリカ食文化を反映した、「ハミングバードキャロットケーキ」をいただいた。

バナナやナッツ、フロスティングクリームチーズとグラニュー糖、シナモンなどを重ねて焼いたキャロットケーキである。

バナナの甘み、ナッツやシナモンの香ばしさ、チーズのコク、人参の香りが次々と口の中で花開いて、美味しい。

これもアメリカ南部に伝わるケーキで、藤島さんは「なかなか日本では食べることができないから作りました」と笑う。

ハミングバードケーキはジャマイカらアメリカ南部に伝わったケーキで、名前はハミングバードがジャマイカの鳥であることにちなんでいるのだという。

うむ、ここに来ると、アメリカ文化の勉強になるなあ。

そして、食器がどれも可愛らしい。

色合いに、どれもおおらかさがあり、素朴で優しい。

聞けば、どれも1920年代のファイヤーキング製の食器だという。

ここには古き良き時代の、南部アメリカがある。

ブルースが生まれた、諦観と希望が綯交ぜになったたくましい精神が流れている。

できることならば、ここに4〜5時間いて、のんびり過ごしたい。

藤島さんのブルースを聴きながら、酒を飲みたい。

心底そう思った。

ちなみにこの店がある本山町は、北緯33度45分、ミシシッピー州の中心も北緯33度である。

 高知県長岡郡本山町本山「Cafe Missy Sippy (カフェ ミシシッピ)」にて