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【高知グルメ】創業30年!カウンター席で四季を味わう「天ぷら天賀」ほっとこうちおすすめ情報
この情報は2023年2月19日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、高知家の〇〇の2000記事公開記念企画「マッキーさんが高知に来たら必ず訪れたい店」の第二弾として、高知県吾川郡いの町中ノ川「手打そば 時屋」をご紹介します。
雪に囲まれた山奥の蕎麦屋にやってきた。
前に来たのは3年半前の春だった。
※前回の記事は、本記事の最後からお楽しみください。
今回は葉を落とした木々と渓流に、寒風が吹き抜ける真冬だ。
こりゃあ、絶好のロケーションではないか。
木々が芽吹いて、爽やかな風が吹き抜ける前回も心地よかったが、こういう寒々とした光景の方が蕎麦が似合う。
こういう場で食べてこそ、蕎麦が生きる。
「手打そば 時屋」と黒字で染められた白暖簾をくぐると、入り口には藍色の火鉢が置かれ、煌々とおこった炭がくべられていた。
通されたのは囲炉裏を囲む卓である。
ガラス戸から、冬の景色を望みながら炭火を囲む。
早く蕎麦が食べたい。
その気持ちを抑えるように、蕎麦前をいくつか頼んだ。
まず運ばれたのは、「そば粥」である。
蕎麦粉を入れて最後に練ったという粥は、ぽってりとした粘度で灰色に輝いている。
蕎麦の実と蕎麦粉が入ってほんのりと甘い。
青菜や細かい正方形に切った根菜が入って、体と心をじんわり温める
蕎麦の滋養が、細胞の隅々まで行き渡っていく。
外の静けさと寒い光景が、このそば粥の味を一層高めている気がした。
次は、天ぷら盛り合わせが運ばれる。
サクッ。
熱々の天ぷらをかじって酒を飲む。
続いては「ぐる煮」である。
高知の郷土料理で、大根や人参、ごぼうやサトイモなど、冬の根菜をさいの目に切って煮た料理である。
「ぐる」は高知の方言で、「みんな」「仲間」という意味で、様々な根菜を一緒にして炊くことからついたという。
各地に似た料理があるが、ぐる煮はあっさりとした味付けである。
おそらく毎日食べても飽きないようにとの配慮だろう。
あるいは、数日にわたって食べていくと次第に味が染み込んで美味しさが増すことを考えてのことかもしれない。
素朴な料理だが、先人たちの知恵が詰まった料理は、しみじみとうまい。
次に、だし巻き玉子がやってきた。
口に含んだ瞬間に顔が崩れてしまう、甘いだし巻き玉子である。
その甘さを酒の甘さと合わせれば、一気に気分が上気していく。
さあ、蕎麦が運ばれた。
包丁の冴えが光る極細打ちの、顔立ちがいいそばである。
ずっずずず。
ずっずずず。
持ち上げたそばの下三分の一をそばつゆにつけ、音を立てながら一気に手繰る。
喉にぶつかった蕎麦の香りが鼻に抜けていく。
野趣に富む、草の香が漂う。
蕎麦はしなやかで、ほのかに甘みを秘めている。
そのかすかな甘みが、冬景色に光を刺す。
素朴な蕎麦の味に感謝する。
やはり冬景色に囲まれながらの蕎麦は、いい。
高知市内からここまで、2時間ほど車を走らせた褒美が待っていた。
蕎麦の余韻に浸っていると、蕎麦湯が運ばれた。
立ち上る湯気を眺めていると、かけがえのない「時」が、体の中に満ちていく。
ありがとう。
心の中で静かに呟き、箸を置いた。
高知県吾川郡いの町中ノ川「手打そば 時屋」にて