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「また来てしまった」高知の夜にハシゴして最後に行きつく店「餃子家 よこじい」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2022年12月18日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、マッキーさんがプライベートで通う高知市の「餃子家 よこじい」を訪ねてきました。

食事をして何軒かハシゴしているのに、最後にまた来てしまう。

そんな店が誰しもある。

ぼくにとって高知でのその一軒が、「餃子家よこじい」だった。

最初に訪れた時、カウンター席とテーブル席二席を切り盛りしているのは、よこ爺その人一人だった。

なぜよこ爺と呼ばれているのかはわからないけど、一見は怖そうで愛想が悪そうな親父だった。

しかし、ここに通ううちによこ爺の優しい心根がわかってきた。

ある夜は、隣のマーチンの店から抜け出し、「なんかラーメン食べたいんだけど、体に優しいのはない?」

そう尋ねると、

「なら、シジミラーメンを麺少なめで作ろうか」

というので、

「はいお願いします」

と、即答した。

選りすぐった、でかいシジミを徹底的に砂をはかせてから、冷凍して、旨味をふくらませたやつを、水に入れてスープを取る。

後は、塩とネギと生姜だけだが、しみじみとうまい。。

酔った頭と胃袋に、シジミラーメンの滋養が染み渡り、心が豊かになる。

塩加減が精妙で、味が澄んで、体に力がみなぎる。

「こんな手間かけているのに、なぜ裏メニューなんですか?」

と、聞けば、

「みんなが頼むと、めんどくさい」。

そう言ってよこ爺は、ニヤリと笑った。

ある夜に行くと、

「今夜もラーメンていう気分? よし、ならメニューにはないけど、どこでも食べたことない奴作っちゃる」。

そう言って、よこ爺は動き出した。

「飲んだ後に肉はいらんろう。うどんにしようかと思っても、ラーメンも食べたいっていう時に、これはラーメンとうどんの中間ながよ」。

そう言って出されたのは、蒲鉾とちくわに天かす、そして鶏肉に細めんの麺料理だった。

一口食べて、

「これはうまい。初めて食べる組み合わせだ」

というと、よこ爺は子供のような顔になって、嬉しそうに笑う。

透き通ったスープが優しく、アルコールを中和させながら胃袋に消えていく。

 

かように、ここは麺料理がうまい。

だが店名から分かるように「餃子家」であるから、餃子も食べなきゃいけない。

他の餃子とは違う肉あんがうまい焼き餃子もいいけど、おすすめは、葉わさびが、こじゃんと(土佐弁で「たうさん」)入っちゅう、葉わさび餃子である。

一口目二口目はなんともないが、七回噛んだあたりから葉わさびが顔を出す。

鼻奥を蹴飛ばされ、涙が一筋つうっと流れでる「泣く餃子」にはまって、締めには必ず泣きに行く。

そんなよこ爺は57歳でこの店をはじめたという。

そのころは近くに餃子の店がなくて、餃子を何種類も置く店を始められた。

よこ爺の本名は、横山さん。

30歳の時に武爺という人と仲良くしていた関係で、若いうちから、よこ爺とよばれていたという。

そして店名にもそのニックネームをつけた

だが最初は、なんだこの店名は!と笑われ、絶対3ヶ月で潰れると皆から言われたという。

だが数十年続き、流行り、「あと20年はやる」と、よこ爺は決めている。

最近は、この店の味に惚れ込んだ若者が入店し、二人体制となっている。

なによりも、まだまだこの店の味が続くことが嬉しい。

「いまは人生相談の相手ばっかりしゆう」

と、よこ爺は言う。

この店の味とよこ爺の人柄に触れた若者が、多く訪れて馴染みとなり、人生相談をし始めたらしい。

不良爺さんであるよこ爺の人生相談は、親や先生や上司とは違う温かみがあるのだろう。

そんな想像をしながら、またこの店に来ようと強く思うのだった。

高知県高知市帯屋町1丁目「餃子家 よこじい」にて