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高知県民が愛するブランドみかん「山北みかん」が危機!?産地を守るために奮闘する元行政マンがアツい

       

この情報は2023年1月5日時点の情報となります。

甘酸っぱい香りが広がる「山北みかん」の畑

この日、高知家の◯◯取材班は山北みかんの農園を訪れていた。

山北みかんの農園があるのは、高知市中心部から東へ車で約40分ほど行った香南市香我美町山北。

畑では四国銀行の行員とその家族が収穫ボランティアを行なっていて、子どもたちの元気な声が山間に響いている。

テキパキと働く子どもたち。手際の良さは大人顔負けだ。

あたりにはみかんのいい香りがフワッと広がる。

このみかん畑を管理するのは株式会社 山北みらいだ。

山北みらいは高知県物部川流域の観光まちづくり会社「ものべみらい」と香南市香我美町山北地区の農家さんが、2019年に共同で立ち上げた会社。

今回は、「山北みらい」立ち上げまでの経緯と高知県民が愛する「山北みかん」が置かれている現状をお伝えする。

 

山北みかん農家が激減!危機にあるみかん産地

山北みかんは、香南市香我美町山北で生産されたブランドみかん。「みかんといえば、山北みかん!」という高知県民も少なくないだろう。

しかし、産地では深刻な問題を抱えているのをご存知だろうか?

それが山北みかん農家の減少。

2015年のデータでは、直近10年間で230軒あった農家さんが190軒まで減っていて、減少数はなんと40軒にもなる。

その間に新規就農する人が8人いたものの、48軒減少してしまっていたため、結果として40軒の減少となっていた。

また、農家さんの高齢化といった問題も抱えており、将来的にはさらに離農が進むことが予想されていた。

この現状を知って立ち上がった行政マンがいた。

それが、現在山北みらいの代表を務める堀川 里望さんだ。

当時、香南市役所で六次産業化担当として農林水産課に配属された堀川さんは、山北みかんの産地が置かれている厳しい現状を初めて知ることとなる。

堀川さん:県内では認知度の高いブランドである山北みかんが、こんな状況に置かれていることを知ってショックを受けました。農家さんが減っていく中で、どうやって産地を守っていこうかと考え始めたのがスタートです。

喫緊の課題は、農家所得の向上と血縁関係者以外も就農できる環境づくり。

まず取り組んだことは、任意の協議会の立ち上げだ。2015年に農家さんと農協、高知県と香南市役所のメンバーで設立し、加工用みかんを使った加工品の開発から始めた。

そうして、地元のお菓子屋さんに協力してもらい生まれた商品が「みかんバター」だ。

堀川さん:それまで加工用みかんはコンテナいっぱいに入れて、約7円/1kgで売買されていました。販売価格が安いことと出荷する労力を勘案して、不恰好なみかんは販売せずにそのまま山に廃棄する農家さんもいました。そのみかんを猪や鳥が食べに来ることで、自然環境への悪影響が生まれていることも問題だと感じていました。加工用みかんの買取価格を50円/1kgと上げ、出荷量を増やして地域で加工し、販売する取り組みを始めました。

「みかんバター」の次に取り組んだのが、ストレートジュースへの加工。

堀川さん:「みかんジュースはすでにいっぱいある」と反対の声もありましたが、どこの産地も当たり前に取り組んでいることにすら取り組んでいないのが、ここ山北だったんです。まずは僕が搾汁工場で試してくるので、とりあえず飲んでみてくださいと説得して、試作品を飲んでもらいました。飲んでもらうと、否定的だったメンバーから「美味しいねぇ」「どうやって売る?」とだんだん積極的な意見が出てきました。このストレートジュースは、ふるさと納税への返礼品として商品化されました。

「みかんバター」やジュースなどが少しずつ売れていく中で、堀川さんは「ヒット商品を作ることで農家所得の向上には貢献するが、産地の本質的な課題は解決しない。産地の未来を担う若者の就農を支援していくことが必要だ。」と新規就農者の受け入れに取り組み始めた。

 

新規就農者を受け入れて「山北みかん」農家を育てる

2018年からは地域おこし協力隊に山北みかん研修生の枠を設けて、全国から新規就農者を募った。

京都と東京から2名の移住者を受け入れ、先輩農家さんに指導してもらいながら、山北みかんのノウハウを学んで行く中で、受け入れ側として体制を整えていくことの必要性を堀川さんは感じていく。

堀川さん:農家さんに依存する形の育成体制だったので、農家さんの負担が大きく、持続的ではないということが1年目で分かりました。そこで、新規就農者受け入れのための新しい組織が必要だと考え始めました。会社で圃場を借り上げて、そこで研修生が独立に向けて経験を積むことができれば、農家さんへの負担なく後継者を育成できるのではないかと考えました。そうして生まれたのが「山北みらい」です。

山北みらい設立まで3ヶ月というある日、堀川さんは農林水産課から上下水道課へと異動となってしまう。

農家さんたちと話を重ね、時間をかけて良い関係を築いてきただけに、設立を共に迎えることができなかったのは残念だが、それも行政マンの定め。

堀川さん:会社が設立されて少し経った頃、地域の人から「堀川さんがおらんといかん」と言ってもらい、自分自身もプレイヤーとして関わっていきたいという思いがフツフツと湧き上がってきて、家族に市役所を辞めて山北みらいに入りたいと相談をしました。自分も家族も行政職を辞めるなんて想像もしていなかったのですが、最後には「自分がやりたいと思うことをしたらいい」と妻から背中を押してもらいました。

行政マンを辞めず、外から見守ることもできただろう。それでも、堀川さんは退路を断って、山北みかんの未来を共に創ることを選択した。

堀川さん:最初に受け入れた研修生は、今では農家さんたちが自分たちの息子のように可愛がってくれています。独立の際には、「この農地でスタートさせたらどうか」「使ってない軽トラがあるき、これを使ったらえい」など色々と世話を焼いてくれて、私としてもホッと一安心しています。研修生のうち1名は卒業後に山北みらいへ入社し、移住前の経験を活かして財務を担当しながら、次の研修生の指導にもあたっています。

現在は3人目と4人目の研修生が山北で学んでいて、今後も継続的に研修生を受け入れ、担い手を育てていく予定だ。

現在は2万平米の圃場を管理しているが、今後はさらに増えることが予想される。

堀川さん:山北は江戸時代から続く、みかんの産地です。地域の人が作ってきたこの産地を未来につなげていくために、山北みらいはできました。地域の人から信頼される存在として、地域外と産地を繋いでいければと考えています。

農家の息子でもなければ、農家を目指しているわけでもない堀川さん。

2015年に山北みかん農家が減少しているという現状を知って、ほっておくことが出来なかったことから全てが始まっている。もし行政の担当が堀川さんじゃなければ、山北みかんの農家さんは減少の一途だったかもしれない。

「山北みかんを未来に繋いでいきたい。その使命感だけ。」と言い切る、その覚悟。

こんなに熱い思いを持った人が産地を支えているのだ。

いち消費者として、全力で食べて応援したい。

 

株式会社 山北みらい

住所:高知県香南市香我美町山北3778-1
http://yamakita-mirai.jp/

 

文/長野春子