高知家の◯◯高知家の◯◯ 高知県のあれこれまとめサイト
高知県のあれこれまとめサイト
  • facebook
  • x
  • instagram
  • youtube
 

豊かな高知食材から様々な料理を生み出す料理人との出会い「アンナータ」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2022年7月10日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが、高知の料理店・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は高知市の中心エリア、はりまや町に店を構える「アンナータ」にお邪魔してきました。

その店は、ビルの二階でひっそりと佇んでいた。

看板も、店名も出されていない。

二階に登り、自動ドアが開けば「いらっしゃいませ」と、温かい声がかかり、シェフが現れた。

すでに高知では100軒近くレストランに行ったが、はりまや橋の近くにこんな店があるとは知らなかった。

店名は「アンナータ」という。

店内は清潔感に富んだカウンターと個室に別れ、シェフ一人で切り盛られているようである。

料理が始まった。

カウンターから望む厨房でシェフが作られ、自ら運ぶ。

一皿目は「秋田のじゅんさいと高知のトマト」による料理だった。

トマトジュレとじゅんさい、トマト、ブッシュバジル、柚子などが合わされて涼やかなガラスの器に入れられている。

トマトの柔らかな酸味と甘みがじゅんさいを包み、バジルや柚子が後から香る。

爽やかな夏の到来である。

猛暑の日中を過ごした体が落ち着き、途端に食欲がせり上がってきた。

続いて運ばれたのは、「稚鮎フリットの内蔵ソースとハーブ」である。

二匹を連なるように揚げ、鮎肝のソースをかけ、ハーブや木の芽をかけてある。

ガリッ。

稚鮎を頭からかじる。

稚鮎ならではの拙い甘みが広がり、肝ソースの苦い旨味が追いかける。

肝を取り出してソースにしてあるのがいい。

肝付きのままフリットにしても美味しいが、かじった時に肝の味わいが勝って、稚鮎の繊細さが味わえない。

だがこうしてソースとして添えるなら、肝の苦味も身のほのかな甘みも味わうことができる。

さらにハーブや木の芽と合わせれば、その清澄な香りが、深山の川で泳ぐ鮎の光景を思い浮かばせる。

次に運ばれたのは、花を浮かべた白いスープである。

山羊のチーズのムースとスープ、オリーブオイル、ヤマモモ、ブラックベリー、エルダーフラワーを合わせた料理だという。

ムースとスープの酸味がいい。

ふくよかなコクを持つチーズ自体の酸味が、穏やかに舌や喉を洗うように流れていく。

そこにフルーツの甘酸味が調和して、気分が豊かになる。

続いて運ばれたのは、魚料理だった。

「高知産金目鯛の炭火焼き   茶豆と豆乳ソースマジョラム風味」である。

なにより金目鯛がうまい。

加熱が精妙で、身に力がある。

一口食べた瞬間に「うまいなあ」と、独り言を呟いてしまった。

ソースの優しい甘みとマジョラムの軽い爽やかさも、魚の味を持ち上げている。

高知は室戸岬などで良質な金目鯛が獲れ、今までいろんな料理をいただいたが、この魚のたくましさとデリケートな面を表したこの料理は、図抜けている。

魚料理の余韻に浸っていると、サラダが運ばれた。

温かい野菜料理だという。

ハーブなどを様々入れて深みと香りをつけた温かいホエーを、野菜にかける。

スープに酸味があって、それが野菜の甘みを引き立てる。

リュウキュウや人参、じゃがいも、玉ねぎ、葉野菜など、20種ほどの野菜が、ホエーに気持ちよく浸かり、生き生きと自分の味を主張する。

同時に運ばれる全粒粉のパンが、これまた酸味があっておいしく、ホエーに浸して食べるとたまらないのだな。

続いてはパスタである。

「愛媛のケンサキイカのワタとスミを使ったパスタ」が運ばれた。

いやあ濃密です。

サラダの優しさとは一転して、イカのすべてが凝縮したソースに酔う。

これもまたパンで拭って食べるとたまらない。

最後の皿は、「京都七谷鴨の炭火焼き  茗荷のマリネ」である。

的確な加熱で調理された鴨の鉄分が、口の中で爆発する。

金目鯛といい鴨といい、ただ炭火で焼くだけでなく、そのものの滋味を高める焼き方が素晴らしい。

修行先を聞いて、合点した。

神戸の三つ星スペイン料理「カセント」だという。

「あの店で修行させてもらったことで、焼きの概念が変わりました」。

そうシェフは静かに言われた。

シェフはこれからも、豊かな高知の食材を使って、様々な料理を生み出すに違いない。

また一つ、高知を生かす料理人に出会えたことが、なんとも嬉しかった。

高知県高知市南はりまや町1「アンナータ」にて