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うどん愛溢れるうどんがタダのうどん屋「三里うどん本舗」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2022年5月15日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は高知市十津の「三里うどん本舗」にお邪魔してきました。

うどん屋に行ったら、うどんがタダだった。

高知市郊外にある「三里うどん本舗」である。

住宅街の中に一軒、ぽつねんと建っている店で、知らなければそこが店だと気づく人は少ないだろう。

こんな場所で、お客さんは来るのかなと心配になる。

失礼ながら、あまりの商売っ気のなさに、よほどご主人はうどんを打つことに情熱を傾けているに違いないと想像をした。

そんな思いで店に入ると、入り口横のカウンターに、うどん玉が盛られていて、「ご自由にお持ち帰りください」と、書いてあるではないか。

なんとも、太っ腹なうどん屋だ。

さて、なにを頼もうか。

3人で来たので3種類いける。

こういう時には、プロの食べ手としての意識が高まる。

まず、コシや香りを確かめるために「ざる」、つゆの味を確かめるために「わかめうどん」。そして高知のうどん屋では珍しい「中華そば」がいいだろう。

そう思い注文をした。

しかし、店内に貼られた記事を読んでいると、裏メニューとして、「まかないうどん」なるものがあるのだ。

これは外すわけにはいかない。

「すいません、ざるうどんをまかないうどんに変更していただけますか」と、頼む。

これが正解だった。

まずは「わかめうどん」が出来上がったようで、おかみさんが聞く。

「葱、天かす入れますか?」

「はい、お願いします」

湯気が顔を包む。

まずは、つゆを一口。

いりこを感じるかすかな酸味があって、甘すぎない、すっきりと品のあるうどんつゆでいい。

麺はしなやかで、最初からコシは来ない

表面が柔らかく、芯に静かなコシがあるといった感じである。

さあ、次に「まかないうどん」が運ばれた。

「まかないうどん」とは、温かいつゆに冷たいうどんを入れたうどんである。

つまり理論上では、香りと甘みを最も効果的に味わえる温度となっている。

つるるとすすれは、小麦の甘い香りが鼻に抜けていき、噛めばしなやかでほのかに甘い。

15回ほど噛むと、うどんは口の中から消えていく

しかし秘密は、温度だけではない。

ご主人の河津忠さんが熱く語られた。

「普通のうどん屋は、ゆがいて芯を残す状態で引き上げ、冷水で締め、再び温かい湯に潜らせる。これでコシは出るが、うどん本来の味は出せないんです。そのため、まかないうどんは、普通のつゆうどんより3分ほど長く茹でてから冷水に落とします」。

「手間がかかるのと、上げるタイミングが難しいので、通常メニューには書いてないんです」と、ご主人は苦笑した。

うどん愛に満ちたご主人の話を聞いていると、うどんの命はコシでなく、香りにあるのだと思う。 

食べ終わってうどんの無償提供のことを聞いてみた。

「昨日打ったうどんなんです。でもまだまだおいしいので、皆さんに配ってます」。

ご自由にお持ち帰りくださいの下に書かれた文言が、愛を語っている。

「早目に食べて下さいネ」

きっと我が子を送り出す心境なのだろう。

こちらの中華そばの話はまた後日、お楽しみに。

高知県高知市十津2丁目「三里うどん本舗」にて