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この情報は2022年3月17日時点の情報となります。
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撮影者:@ns_photo_gallery(Instagram)
大阪で20年間、営業畑一筋で歩んできた三戸さん。「人生を変えたい」その一心で縁もゆかりもない高知へ移住し、2018年にゆず専業農家として新たな人生をスタートしました。
現在は香美市物部町に1つ、同市香北町で2つ、計3つのゆず園で約1,350本のゆずの木を育てています。そこで収穫される『物部ゆず』は、希少価値が高く、その美しい外観から加工せず丸ごと果実の姿で全国に出荷されています。
「高知に来て20年寿命が伸びたんじゃないかな」と明るい笑顔で語る三戸さん。脱サラし、高知でゆず園を始めるに至った経緯や、現在の暮らしぶりについて詳しく伺いました。
撮影者:@ns_photo_gallery(Instagram)
─以前は、大阪でサラリーマンをされていたとのことですが、現在に至るまでの経緯を教えていただけますか?
三戸さん:1996年に、新卒で住宅建築会社に入社しました。阪神大震災が起きた翌年です。それ以来、日本経済は右肩下がりが続き、私が携わる住宅市場も年々縮小傾向にありました。それでも会社は、当たり前のように前年度以上の売上を求めてくる。営業なので当然ですが、私にはそのノルマがつらく苦しいものでした。
─それがきっかけで退職を選ばれたのでしょうか?
三戸さん:その後ですね。東日本大震災を機に社会システムの矛盾に気づき、「それはおかしい」という疑問が一気に湧き上がってきたんです。「一つの会社にしがみついて必死に苦しさに耐えるよりも、そこから自分を解放してあげたい」と思うようになり、20年勤めた会社を辞めて転職ではなく違う生き方を探し始めました。
─そこで見つけたのが、今のお仕事だったのですね。
三戸さん:そうです。たどり着いたのが高知県での独立自営農業という道でした。
撮影者:@ns_photo_gallery(Instagram)
─高知県にはもともと縁があったのですか?
三戸さん:いいえ。高知県にはサーフィンで訪れたことがあるぐらいで「いいところだな」という印象しかありませんでした。インターネットを通じて『高知県立農業担い手育成センター』の存在を知り、私のように農業未経験でも農業で独立ができることを知ったのです。その後、会社を退職して、大阪で開催されたセンター主催の『こうちアズリスクール』に参加しました。
─高知に移住されたのは、それからですか?
三戸さん:そこで出会った同センターの職員さんに相談して、翌年2017年4月に同センターの研修生として1年間、『クラインガルテン四万十』に移住したのが始まりです。クラインガルテン四万十は同センターの敷地横にある施設で、そこを拠点にしてセンターに通い、農業に関する知識や実技を学んだんです。
その間に、「自分はどの作物だったら楽しいか」「どんなことをやったら満足できるのか」と県内にある農業の様子を見て回りつつ、本格的な移住先を検討していました。
─それで『物部ゆず』と出会ったのですか?
三戸さん:そうなんです。果汁の原料となる他のゆずと比べて『物部ゆず』は高値で販売されるため、専業農家として独立しやすいことが決め手になりました。
撮影者:@ns_photo_gallery(Instagram)
─大阪から高知に移住されて、それまでの暮らしからギャップを感じることはありませんでしたか?
三戸さん:むしろ、社会や人間関係のしがらみから解放されてすっきりしましたね。サラリーマン時代は、毎朝8時半に出社して帰宅するまで何時間も拘束されるため、自分のペースでは動けません。
ここでは朝起きて「今日は気分が乗らないな」と思ったら、予定を変更することができます。もちろん昼まで寝ていても誰にも怒られません(笑)。
「自分がイヤだと思うことは、もうしない」と決めているので、ここでは自分の心に従って生きているなと実感しています。
─素敵な生き方ですね。明るい笑顔からも、日々を楽しんでいらっしゃる様子が伺えます。
三戸さん:『物部ゆず』は、だいたい10月下旬から色づき始めて、11月に収穫の繁忙期を迎えるため、その時期だけはアルバイトさんを雇って手伝ってもらっています。仕事量だけで比べれば、サラリーマン時代の方が何倍も忙しかったですね。
大阪ではいつもストレスを抱えていましたが、今はしかめっ面しながら収穫するなんてことはありません。気分がまったく違います。
撮影者:@ns_photo_gallery(Instagram)
─大阪から高知へ移住されてみて、地域の皆さんにはどのような印象を受けましたか?
三戸さん:都会から見れば、このような田舎は閉鎖的なイメージを持たれるかもしれません。しかし、ここではそういった雰囲気はまったくありません。
たまたま飲食店のテーブルで隣になった人が、どこの馬の骨ともわからない私に対して「これ飲みや」ってビールを出してくれたことがあったんです。自然と温かく迎え入れてくれたことが何より嬉しかったですね。
─今の暮らしが三戸さんにすごく合っていらっしゃるのですね。
三戸さん:そうだと思います。サラリーマン時代は、「板子一枚下は地獄」って言葉があるように、荒波の中で舟から落ちたら終わりだっていうイメージがあって。椅子取りゲームに勝ち残るためにはどうすればいいかと常に考えている自分がいました。
多かれ少なかれ私の世代では、親や社会から「勉強していい学校に入って、いい会社に入れ」って言われてきたと思うんです。でも本当はそんなことなかった。自分で自分を縛っていただけでした。
私にとってのきっかけは農業でしたが、農業じゃなくてもいいと思うんです。「自分らしく生きてほしい」このメッセージが、誰かの背中を押すスイッチとなって、苦しみから解放されるきっかけになればうれしいです。
撮影者:@ns_photo_gallery(Instagram)
─専業農家として歩んでいくのに、今後どういった課題がありますか?
三戸さん:現在『物部ゆず』は、この地域一帯にある170軒の農家で出荷をしています。今は安定して供給できていますが、これから先訪れる高齢化や過疎化などの問題は避けては通れません。そうした中、農協にある柚子生産部会内で『担い手対策協議会』を立ち上げて、耕作面積や出荷面積を維持しようという動きを始めています。
また、私のように、農業で新しい人生を始めたいという方に向けて積極的に情報を発信していけたらと考えているんです。10年後、20年後も現状を維持しながら発展させていくことが、私にとっても地域の皆さんにとっても幸せなことだと思っています。
─ありがとうございます。あらためて、三戸さんが感じておられる高知の魅力を教えていただけますか?
三戸さん:高知県は、お遍路文化に代表されるように、私みたいに外から来たよそ者でも温かく受け入れてくれる文化が根付いた地域だと思います。
新しい町で暮らす際、誰しも「自分を受け入れてもらえるか」が気がかりになるでしょう。ここでは、その心配はまったくいりません。あまり悩まずに懐の深い高知に思いっきり飛び込んでもらえたらと思います。
物部ゆず専業農家 三戸 毅
住所:高知県香美市香北町永野2083‐4
TEL:090‐8234‐4457
mail:310mitochan@gmail.com