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【高知グルメ】「珈琲の魅力を伝えたい」薬剤師でもある店主の想いが詰まった「気ままに珈琲」ほっとこうちオススメ情報
この情報は2018年12月16日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすタベアルキストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。
その店は、繁華街から外れた閑静な場所に、ひっそりと佇んでいた。
店構えに、渋柿色の暖簾がさりげなく下がり、横の細い窓には、南天が活けられている。
楚々としながら、凛とした店構えは誘われる。
京都の路地にありそうな、品格がある。
入れば、右手がカウンターで、左手にテーブル席が伸びている。
ご主人が立つカウンターの上には、品書きの木札がずらりと並べられている。
ぶり、ひらめ、てっ刺、うに、甘鯛百合根蒸し、一夜豆腐と野菜煮、海老芋万頭、甘鯛味噌漬け、かき、鯖棒鮨。
日本料理好きなら、酒飲みなら、思わずそそられる料理がならんでいて、喉が鳴る。
どちらへ行っても、カツオが筆頭に並ぶ高知市の日本料理店では、実に珍しい品揃えである。
ご主人の藤田 芳男さんは、高知の割烹「初瀬」で30年修行したのち、この店を開いたのだという。
もう14年となるこの店は常連が多い。
地元の人間だけでなく、全国にお客さんがいて、高知に来るたびにこの店に寄ることを楽しみにしているのだという。
高知県の食材も扱うが、全国の食材も扱う。
魚介も現地から直接取り寄せて、料理に仕立てる。
細長い木箱風器に盛られて、突き出しが出された。
バイ貝、鱧のカピタン(甘くない南蛮漬け)、柚子釜に入れられた柿の胡麻酢和え、鯖棒鮨、鴨ロース、酒盗である。
ううむ。困った。これでは最初から酒を飲み過ぎてしまうではないか。
続いてお造りは、細かい包丁目が美しい、氷見の鰤ときた。
にんにく葉をすりつぶした酢味噌が添えられており、その風味がどこにもない、高知らしい感覚を生み出す。
煮物椀は、地牡蠣と山芋のしんじょを椀種に、椀ツマは、ほうれん草とあられ切りの白葱、吸い口に柚子が添えられる。
牡蠣のミルキーな旨味が口いっぱいに広がり、つゆの旨味と抱き合う。
「ふうっ」思わず微笑んで、ため息が漏れた。
鰤の包丁目といい、小さく同寸にネギが切られている点といい、ご主人仕事ができる。
焼き物は、氷見ぶりの照り焼きである。
箸を入れればホロリとくずれ、口の中でしっとりと広がっていく。
焼き加減が精妙で、脂が乗ってきた鰤の滋味を余すことなく生かしている。
牛肉のすき焼きは、細かく細かく泡だてた卵汁の空気を含んだ滑らかさが良く、肉の脂がすうっと溶けていく。
続いての揚げ物は、フグである。
鉄砲揚げと呼ばれるその料理は、フグの筋肉質な肉体をかじりつき味わうには最適な料理で、酒が進み、顔が緩んでたまりません。
そして最後は蒸し物で。蕎麦を敷いて蒸した「甘鯛の信州蒸し」である。
昔はよく割烹でお目見えした料理だが、最近はとんと見なくなった。
古き良き仕事が懐かしい。
ご飯は、牡蠣の炊き込みご飯が出された。
牡蠣の旨味を吸ったご飯の美味しいこと。
何膳もお代わりをし、おコゲごといきたかったが、ぐっと我慢して残りはおにぎりにしてもらう。
そして、羊羹が出され、薄茶で締められた。
静かである。
市内から外れているために、喧騒が聞こえないというのもある。
しかし料理が、これ見よがしでなく静かな美しさがある。
こんな高知もある。
静かに一人酒を傾けたい夜もある。
高知市大川筋1丁目「ふじ味」にて