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【高知グルメPro】地元愛されイタリアンから人気の和食屋に夜の〆の屋台餃子までそろう「廿代町」のおススメグルメ6選 食いしんぼおじさんマッキー牧元の高知満腹日記セレクション
この情報は2018年8月19日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすタベアルキストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。
「お料理上手ですね」。
ご主人の背景をよく知らずに、大変失礼なことを言ってしまった。
ここは高知中央部にあり、土佐和紙で知られる「いの町」である。
車が頻繁に行き来する通りに面して魚屋がある。
その店先で、週末だけ料理を出すという噂を聞いて、やってきた。
店は、どこにでもあるような魚屋で、ガラスケースに収まった魚が並べられている。
ガラスケース前の狭いスペースに、粗末なテーブルが置かれていた。
立ち食いである。
「ははあ。ここで魚を決めて、刺身や煮つけにしてもらうんだな」。
魚屋が定食屋を併設している。
立ち食いということをのぞけば、高知では割とあるスタイルである。
「魚を選んでもらってもいいですし、定食もあります」。
「定食はどんなのですか?」
「はい5品ほどついて、あとは吸い物とご飯で、八百円です」
「では定食を」。
「はい、かしこまりました」。
すると、ご主人は奥から黒塗りのお膳を取り出して、テーブルの上に置いた。
立ち食いなのに、ただならぬ雰囲気である。
最初に出されたのは、「ウルメイワシのおからずし」である。
藍色のガラスの器に、酢締めされたウルメイワシがおからずしを抱きながら、可愛く鎮座している。
緑色のもみじ葉が涼を呼び、ミョウガの酢漬けが彩りを膨らます。
その一品の、盛り付けと姿を見ただけで、こりゃあ只者ではないと思った。
「ウルメイワシのおからずし」は、イワシの酸味とうま味が、甘酢で味付けて二度濾したおからんおきめ細やかさと、共鳴する。
塩麹につけた鮎を、酢洗いし、鮎の淡い旨味が舌を包む、「鮎の寿司」。
出汁の塩梅が美しい、「冷やし梅茶碗蒸し」。
そのほか、「赤魚のすまし汁」、「りゅうきゅうとウルメイワシの酢の物」、「とうもろこしのかき揚げ」、「まぐろ漬けと葉わさびのたたき」、「塩麹漬けウルメイワシの焼き物」、「だし巻き卵」、「たけのことうすい豆の煮物」など、出てくる料理がすべて、気品がある。
調味のあたりがピタリと決まって、食材を見事に生かしている。
どれも一捻り二捻りの独創がありながら、やりすぎていない。
失礼ながら、料理が魚屋レベルではない。
器や盛り付けも、筋が通って、美しい。
感嘆して、つい先ほどの失礼な言葉を投げてしまった。
最後は「水ものです」と、黒塗り重に氷を詰めて果物が出された。
感服である。
魚屋「魚兼」は、創業から百余年たつ。
三代目となるご主人岡崎裕也氏は、京都の一流割烹「あと村」(今は閉店)で何年も働いたのち、大好きな魚に常に触れたいと、家業の魚屋を継いだのだという。
その話を聞いて、料理の腕に合点がいった。
そう言えば、先にいただいた「とうもろこしのかき揚げ」は、「あと村」の名物料理の一つだった。
「お客さんとやりとりしながら、今日一番の魚をさばいて刺身にし、買っていただく。そんな昔ながらの魚屋の仕事が好きなんです」と、岡村さんは目を輝かせた。
魚に熟知した魚屋さんが、京都仕込みの技で魚を生かし、提供してくれる。
こんな素晴らしい業態は、ないだろう。
「京都で磨いた腕で魚料理を作って出し、魚屋以上の魚屋なりたいと思ってます」。
奥さんと二人、日本のどこにもない、素敵な魚屋さんになってください。
そして僕らを、幸福にさせてください。