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「小説「陽輝楼」の舞台となった料亭で堪能する美味と非日常空間」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2021年2月7日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす美食家・食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は小説「陽輝楼」の舞台となった料亭「得月楼」で美味堪能です。

“ぼんばい”をご存知だろうか?

インドカレーのボンベイでも、シドニー郊外のボンダイでも、ブラフマンのアルバムでも、猪木のボンバイエでもない。

「盆梅」と書き、梅の木の盆栽のことをそう呼ぶ。

宮尾登美子の小説「陽輝楼」の舞台となった、高知の料亭「得月楼」には、錚々たる盆梅があった。

なにしろどれも、樹齢200年から300年という怪物である。

これだけの年月を重ねても、なお可憐な花を咲かせるもの、花は咲かず、表皮もささくれだってもなお生きている樹と、様々である。

時空を重ねた老木は、世の無常と人間の脆さを教えて、静かに呼吸していた。

高知にはこんな料亭があるのである。

街の底力に驚かされる。

「得月楼」は高知を代表する料亭で、昔は3,000坪の敷地に従業員が1,000人働き、芸者さんも200人にはいたというからすごい。

東京や大阪でも、これほどの規模の料亭は、そうなかっただろう。

店名は、酒の大杯に月が映り、月を得るという事柄からつけたそうである。

いまだに堂々たる風情を残す各部屋でいただく料理は、格別である。

飲食店に出かける楽しみの一つは、非日常を味わうということであるなら、これほどの非日常を得られる時間はないだろう。

突き出しは、かいさま寿司、そら豆、わらび白和え、バイ貝、菜の花、ウドと、春の走りが並ぶ。

煮物椀は、慈姑小丸、みぞれ梅、もち米、しめじ、青菜が椀種として入ったお椀である。

ああ、しみじみとうまい。

上品なつゆの味わいが、体中に染み渡っていく。

続いての向付は、かんぱち重ね造り、鯛の平造り、鮪梅花造り、イカの子造りであった。

坪庭のような風美を備えたお造りである。

なかでも鯛が素晴らしい。

柔らかな甘みが噛むほどににじみ出て、酒が恋しくなる。

焚き合わせは、フォアグラ茶碗蒸しときた。

老舗料亭にフォアグラとは、また面白い。

フォアグラの脂の香りが卵の甘みに溶け込んで、これまた乙である。

焼物は、鰆西京二味焼で、あしらったメレンゲふんわりとして、しっとりと焼かれた鰆の旨みを持ち上げる。

添えられた、椎茸や人参とホタテすり身入り玉子焼き、ウツボ煮こごりも丁寧な仕事が光っている。

続いて、ハガツオの塩たたき。

身が実にきめ細やかで、腹身の部分はグッと脂がのって、うまいこと。

大至急また酒が欲しくなる。

ご飯と汁は、つがに汁だった。

ああ憎いねえ。

蟹の姿は見えねども、蟹の風味が口いっぱいに広がって、その勢いでご飯が進むことこの上なし。

幸せである。

最後は、土佐文旦と苺が出された。

 

明治3年創業で、現在は6代目が当主である。

板垣退助も通い、議論の場所だったという。

中には、頭に血がのぼって店を壊す人もいたという荒々しい時代を生き抜いてきた。

元アナウンサーだったというハンサムな6代目は言われた。

「敷居を下げるわけにはいきませんが、カジュアルな面も出し、気軽に来て欲しいと思っています」。

昼は2~3千円でコースがいただけ、出汁巻きサンドを「料亭サンド」の名前で、1,320円で出されているという。

よし今度は、出し巻きサンドだな。

150年の歴史を背負う卵サンド、食べたくはありませんか?

 

高知県高知市南はりまや町1丁目「得月楼」にて