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【高知グルメPro】地元愛されイタリアンから人気の和食屋に夜の〆の屋台餃子までそろう「廿代町」のおススメグルメ6選 食いしんぼおじさんマッキー牧元の高知満腹日記セレクション
この情報は2023年7月23日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は高知県香美市香北町の一軒家「ヌックスキッチン」で最高のジビエ料理をいただいてきました。
ああ、ここに一週間いたい。
心からそう思った。
畑の真ん中に立つ一軒家で、そう思った。
晴れ渡った空に、雲がのったりのったりと流れていく。
爽やかな風が、頬を撫でては、抜けていく。
遠くに見える里山が、のんびりと昼寝をしている。
そんな中で、女主人が焼くジビエにかじりつき、酒を飲む。
心が伸び伸びと手足を伸ばし、安らいでく環境の中で、体をコーフンさせ、上気させる肉を食らう。
一瞬矛盾に思える、そのギャップこそ自然そのものなのだ。
そのことを体に眠っていた野生が目覚めて、教えてくれる。
ここは香北町の「ヌックスキッチン」。
ジビエを食べさせてくれるオーベルジーヌである。
畑の真ん中に、一軒建っている。
家の中庭で ジビエのシャルキュトリーを食べ、焼きたての肉が食べられる。
備長炭を起こし、鹿や猪を焼いていく。
まずは、ハム類から始まった。
できたての猪の生ハムや鹿と猪のリエットなどである。
ハム類のおいしいこと、どれも香りが綺麗で、しっとりして丸い甘い香りが口を満たす。
ハム類を食べながら、ライ麦パンを食べる。
食欲がぐんぐんと湧いてくる。
次が、葉野菜と玉ねぎのヒマラヤレモン塩とオイルのサラダと猪ラルド(背脂を塩漬け熟成させたもの)が出された。
なんとおいしいのか。
新鮮な葉野菜をムシャムシャと食べ、合間にラルドをかじっていると、単純に美味しいだけでなく、体の奥底から生気が湧いてくる。
そんなサラダである。
続いては「鹿のアヒージョ」と自家製パンが出された。
これは、肉肉しい食感ながら優しい滋味がある。
肉を自家製パンに乗せてかじりつく。
それは自然に生きた鹿の、思いやりのある味なのであった。
そしていよいよ焼肉である。
お重に鹿と猪が盛りあわされている。
シカハツ、シカレバー、シカロース、イノシシお尻、イノシシとネギ、イノシシ肩ロースの粕漬けといった肉類が、野菜共にぎっしりと詰まっている。
もう一つのお重には、おにぎり、お新香、傍には薬味が出された。
大根おろし、自家製粒マスタード、柚子胡椒、トマトにタマネギやパプリカを合わせたもの、ネギに油を会えたものなど8種類が、彩りを添える。
女主人の西村直子さんが焼き始める。
まず猪の尻肉、ランプからいってみた。
なんといっても脂が美味しい。
脂に緩みが一切なく、締まっていて歯ごたえがありながら、噛んだ瞬間からするりと溶け、口の中を甘い香りで満たす。
しばし陶然となって、中空を眺めてしまう味である。
次の鹿ハツは、澄んだ味で淀みが一切ない。きれいだ。
そして柚子胡椒をつけて食べる猪レバーは、噛み込んでいくと最後に甘みが膨らんで、顔が崩れてしまう。
「うちのネギを巻きました」という。
ネギを猪の三枚肉を巻いた焼肉は、ネギと猪脂の甘み同士が共鳴して、大笑いしてしまった。
大至急ビールである。
鹿の背ロースは、鉄分豊かで素晴らしく、猪肩ロースの粕漬けは、粕と豚肉が熟れて生み出された味が、深い。
そしてケールの上で、滴り落ちる肉汁をからめるようにしながら、鹿と猪のハンバーグを焼く。
やがてハンバーグは、ふっくらと膨らみ、ケールは汁で輝きながら焦げがつく。
滋味豊かな肉汁が溢れ出るハンバーグに目を見張り、焼きケールの味の濃さ、甘みにやられる。
「おいしいです!」と、叫ぶとご主人は言われた。こと。
「私が上手なのではなく、お肉がいいんです」と、笑われた。
なんでもジビエは、山の中で獲れたものより、海沿いの動物の方が美味しいのだという。
西村さんは、長年の経験からそんな肉だけを取り入れている。
宿泊施設も開放感に溢れた室内が、心地よい。
新しく建てられた部屋もいいが、隣接する西村さん祖父母の家をリノベしたという古民家も魅力的である。
祖父は、大日寺の宮大工だったそうで、随所に古き良き仕事が忍んでいる。
そうだな僕だったら、最初の三日は新築に泊まり、次の三日は、古民家に泊まるな。
それこそ、どんな高級リゾートホテルに泊まるよりいい。
贅沢とは、そういうもんだ。
高知県香美市香北町吉野「ヌックスキッチン」にて