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フレンチでもイタリアンでもないイノベーティブレストラン「IHARA」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2023年6月18日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は都市部を中心に流行っているイノベーティブレストラン「IHARA」を訪ねてきました。

いま、都市部を中心に「イノベーティブレストラン」というスタイルが流行っている。

フレンチでもイタリアンでもない、ジャンルを超え、最先端の調理技術を使った料理を出すレストランのことである。

グルメの富裕層や、フーディーと呼ばれる日本全国、世界中の有名店を回っている食通の人たちからも支持され、ミシュランでも一つのジャンルとして確立している。

ひと昔前ならフュージョン料理と言っていたジャンルである。

土地土地の食材を使いながら、自由な発想で、斬新な料理を作ってお客さんを喜ばす。

味だけでなく、知的好奇心も満たしてくれる料理でもある。

高知県にはそんなレストランはなかった。

だが2022年3月市内にオープンした「IHARA」は、高知県初のイノヴェーティブレストランとして注目を集めている。

シェフは井原尚徳氏。

ミシュランと並ぶ強い影響力を持つレストランガイド「Gault et Millau(ゴ・エ・ミヨ)」にて、以前勤めていた「ヴィラサントリーニ」のシェフとして、四国で初めて2020、2021と二年連続で選ばれた人である。

イタリアン出身の彼は、四国の中でも屈指の料理人と言えるだろう。

本コラムでも、何度か彼の料理の素晴らしさをご紹介してきた。

そして、今年もまた「IHARA」にお邪魔してきた。

店内はオープンキッチンで、カウンター席と個室に分かれている。

シェフほか2人で次々と料理が生まれてくる姿を見ながらの食事は、実に楽しい。

一皿目は、真っ赤なルクレーゼ鍋が目の前に置かれた。

蓋を開けると煙が立ち上がり、木のサジに乗せられた「菜花のモンブラン」が現れた。

煙は、桜のチップと松の枝で瞬間燻製させたものだという

「菜花のモンブラン」は、米とハーブのサブレ生地にレモンゼスト(レモン皮をおろしたもの)と菜花の粉がかかっている。

口に運ぼうとすると、春が香って、思わずニコリと微笑む。

続いてのアミューズは、土に見立てた豆を敷き詰めた木のボウルに、最中とミニバーガーが乗っている。

最中の具は、ヴィネグレットで和えた、のれそれ(高知特有の食材で穴子の幼魚)である。

サクッと最中が弾けると、しなやかなのれそれが現れ、ほのかな甘みが舌に広がっていく。

バーガーは、ほうれん草と生姜に鰹のパテ、蓬(よもぎ)とトマトソースのタルタルだという。

一口で行けば、ほうれん草の香りが立って、カツオの旨味が追いかけ、生姜の刺激が来る。

これまた高知である。

続いてのアミューズは、大きな木のボウルの中に様々な料理が、植物のように配されている。

そば粉の煎餅の上には、黒潮町の本鮪とにんじんキャラメリゼ。

パートブリック(小麦粉に塩と植物油を加えて薄くクレープ状に焼いた皮)で巻いた、高知の地鶏はちきん地鶏のレバームース の煎白胡麻とスパイス風味。

四万十豚の豚足コロッケ、農家民宿レーベンのチーズと芋で作ったチュイル。

地酒の桂月に、山椒、梅干し、焼いた魚、タラゴンなどを漬け込んだ料理という5種類である。

面白いのは、それぞれに高知があって、弾けることにある。

続いての前菜も高知づくしだった。

朝獲れのどろめ、マリネしたフキノトウ、あめごの卵のマリネ 、紫キャベツのエスプーマ 、ミモレット、四万十ポークが一つの小鉢に入っている。

よく混ぜて食べろということなので、教えに従い食べて見た。

おお。卵がプチっと弾け、フキノトウの新鮮な苦味が来て、そこへ、どろめの甘み、ミモレットの旨み、四万十ポークがカリカリと軽快な音を立てる。

様々な要素があるが、巧みにそれぞれの量が計算されて、調和している。

さすが高知の食材を知り尽くした、井原シェフである。前菜からしてこれであるから、魚や肉料理がどうなって行くのか。

そう思うと胸の疼きが止まらない。

以下、次号に続く。

高知県高知市はりまや町2丁目「IHARA」にて

 

▼▼▼後編はこちらから▼▼▼
魚も肉も野菜も!フードジャーナリストが高知食材の豊かさと多彩さに感心し圧倒された二時間半