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【高知グルメ】「珈琲の魅力を伝えたい」薬剤師でもある店主の想いが詰まった「気ままに珈琲」ほっとこうちオススメ情報
この情報は2019年3月24日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。
トマトという野菜と出会ってから、おそらく50数年になるが、こんなに衝撃を受けたことはない。
トマト29種類を食べ比べたのである。
それは、高知土佐市にあるトマト専業農家「ファーム輝」の麻岡真理さんの計らいであった。
渡されたパンフレットを見ると、なんと83種類のトマトを栽培されている。
トマトがそんなに種類があるというのも驚きだが、それぞれに生育条件も違うだろうし、自然交配のリスクもある中で、よくここまで極められたものだと思う。
相当な変態である。
大好きな変態である。
こういう方がいてこそ、我々の食は豊かになり、トマトをはじめとした農業の未来は明るくなって行くのだと思う。
さて麻岡さんの家を訪ねて、まず出されたのは、ジュースである。
フルーツトマトをコールドプレスでスロージュースにしたものだという。
なにも入れていないトマトだけのジュースを、グラスを傾け、口元に持って来ようとした瞬間に、トマト畠にいた。
豊かな香りが弾けて、顔を包み込む。
甘く、青臭く、太陽の香りを浴びながら一口飲んで、鳥肌が立った。
ただ甘いだけではない、青さや酸味や清々しい透明感があって、命の崇高さが体を清めていく。
そして余韻が、いつまでも口のあたりに残っている。
こうしたトマトは、今の時期、2月から4月が一番美味しいのだという。
そして、目の前に小さく可愛い29種類のトマトが出された。
トマトたちは陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
よく見ればそれぞれのトマトに、微細なざらつきがあって、それが光を反射させているのであった。
麻岡さんによれば、ザラザラと表皮しているトマトは、糖度が高いのだという。
さらにトマトのお尻を見せ、放射状に伸びている細い線を指しながら、
「この線の幅が均等なのが、健やかに細胞分裂している証拠なの。天気に恵まれ、病気にもならずにね」。
麻岡さんのトマトは、みな綺麗なお尻の線があった。
それは、日本一の清流仁淀川の水と厳選した有機質肥料を使い、天候や畑の状態によって毎日肥料や水量を変えて丁寧に、愛情込めて育てられた証である。
29種類のトマトの特徴をそれぞれ説明するとき、麻岡さんは「この子はね」という言い方をされていた。
愛が深い。
緑、赤、オレンジ、縞模様、お尻がとんがったの、まん丸な奴と個性はあるが、素人にはどう見ても同じに見えるものばかりである。
「ほらこの子は隣の子に比べて、ちょっと尖っているでしょ」と、麻岡さんは説明してくれるが、まったく見分けがつかない。
しかし味は、それぞれに異なる。
単に糖度が高いもの同士でも、酸味が鋭いもの柔らかいもの太いものもあるし、香りの差もあれば、旨味や食感の差もある。
個人的には、酸味がやや太く、糖度とのバランスが取れていると思われた、ルビーフラッシュ、キャロルパッション、アイコ、ピンキー、オレンジパルチェが気に入ったな。
トマトの食べ比べが終わると、麻岡さんは用意されていたトマト料理を出してくれた。
トマト炊き込みご飯である。
昆布を漬け込んだオリーブオイルで米を炒めて、フルーツトマトを入れ、昆布出汁で炊いたご飯である。
一口食べて笑った。
そこにいた全員が笑った。
トマトの甘みと米の甘みが一体となって優しく、幸せな気分を運んでくる。
二膳目は、昆布オリーブ油をかけ、塩を少しふって食べる。
ああこれは、さらにうまみが膨らんでたまりません。
三膳目は、鶏のスープをかけ、胡椒を挽いてお茶漬け風にサラサラと掻き込む。
うむ、これは、何杯でも食べられるぞ。
食べながら麻岡さんと、料理の話になった。
鶏スープの作り方、トマト鍋の話、他のトマト料理の話と尽きない。
麻岡さんは、最後に言われた。
「こんなに料理が好きなのに、トマトの世話で忙しくて、台所に立つことが少ないのが残念なんです」。
そう言われながら、嬉しそうな笑顔で笑われるのだった。
土佐市高岡町「ファーム輝」にて
http://kagayaki.nouka.tv/