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黒潮を泳ぐ豊かな生命を感じてほしい 大阪海遊館海洋生物研究所『以布利センター』

       

この情報は2024年9月13日時点の情報となります。

四国最南端の土佐清水市にある『大阪海遊館 海洋生物研究所以布利(いぶり)センター』。

ここは海遊館で人気の巨大ジンベエザメをはじめ、太平洋の黒潮の影響を受けてやってくる多くの生き物を収集、飼育し、それと並行して海洋生態の調査研究を行っているところです。

その以布利センターで20年近く勤める入野さん。幼少期から海の生物に魅せられて研究を続けてきたものの、今なお新たな発見に驚くことが多いのだそう。そんな入野さんに、以布利センターが果たす役割を伺いました。

海遊館の生き物の収集・飼育から周辺海域の調査研究まで

画像提供:大阪海遊館

―以布利センターではどのような事業を行っていますか。

入野さん:海遊館で展示する海の生き物の収集と飼育です。

生き物にとって捕獲や輸送はストレスになるため、海遊館から依頼を受けて収集した生き物を、いったん以布利センターで落ち着かせて、人の手で餌を食べられるように慣らしてから輸送します。

その中で飼育に適さない個体は海に逃すのですが、そういった適性を見極めて選別する役割も以布利センターが担っています。

―どのような生き物を収集していますか。

入野さん:冬から春にかけてはマンボウ、初夏から秋にかけてはジンベエザメ、他にもウミガメやアオリイカなどさまざまです。もちろん収集だけが目的ではなく、生態保護という面で高知県沿岸の定置網への入網状況の確認なども行っています。

―展示用の生き物の収集や飼育だけではないんですね。 

入野さん:はい。以布利センターでは、周辺海域の調査研究も行っています。

具体的には1997年から3年間、京都大学と高知大学と共同で、以布利周辺の海域のどこにどんな種類の魚がいるか、また、定置網でとれる魚と潜水で目撃できた魚を調査しています。2001年には、その調査結果を中心にまとめた書籍『以布利 黒潮の魚』を出版しました。

他にも発信機を取り付けたジンベエザメを放流して回遊経路を調査したり、飼育下のジンベエザメの血液やDNAを採取して健康状態のデータを蓄積したり、そういった研究も生き物の収集と並行して行っています。

―海遊館の研究所が高知県の以布利に設立された経緯を伺ってもよろしいでしょうか。 

入野さん:高知県は、太平洋の南から流れてくる黒潮にのってさまざまな生き物がとれる日本有数の漁場です。さらに以布利は立地条件もよく、地元からのご理解とご協力もあり、1997年9月に『大阪海遊館 海洋生物研究所以布利センター』を開設、その後2009年12月には『以布利センター第2水槽』を開設しました。

運送技術の向上で高知→大阪が2分の1の時間に短縮

画像提供:大阪海遊館

―ジンベエザメを捕獲する上で印象に残っているエピソードはありますか。

入野さん:私たちは漁師さんの定置網漁に同行したり、漁師さんから一報を受けて入網状況を確認しに行ったりするのですが、網自体は深さ30mあるので網を引き揚げるまで何の生き物が入っているかわからないんですね。

その時も「ジンベエザメが入網している」と漁師さんから連絡を受けて海に潜っていくと、網の中には自分よりも大きいシュモクザメがうようよいて。とても印象に残っている出来事です。

―普通の人はまず体験できない光景です……。実際、高知で捕獲したジンベエザメはどのように海遊館へ運ぶのですか。

入野さん:輸送は、海路ではなく陸路を使うことが多いです。それまでジンベエザメの輸送に利用していた海路は、輸送に21時間かかり、潮の流れや天候によっても左右されるため安定して輸送できないのが課題でした。

しかし、飼育技術や輸送技術が向上し、今は陸路を使って約10時間で輸送できるようになりました。海路よりも半分の時間で輸送できるので、ジンベエザメにとってもストレスが少なくなったと思います。

また、海遊館に展示する他の生き物も輸送に適した時期に陸路で行っています。

―海遊館に訪れるお客様に対して、注目してほしい生き物はいますか。

入野さん:ジンベエザメやマンボウはもちろん、以布利センターの成果の1つであるイトマキエイです。飼育技術の向上により、これまで飼育が難しかったエイを海遊館で展示できるようになりました。ぜひ高知の海の豊かさに想いを馳せてもらえればと思います。

今後の事業展開について

画像提供:大阪海遊館

―以布利センターの今後のビジョンを教えてください。

入野さん:生き物たちの生態解明を引き続き行っていきます。僕は若い頃からずっと海の生き物を追い続けてきましたが、今でもわからないことばかりです。

それでもジンベエザメに発信機を取り付けたことで、ジンベエザメの回遊経路を知る手がかりとなりました。そういった一つ一つが積み重なっていけば、いずれ大きな生態解明につながると考えています。

もちろん、ジンベエザメの生態解明は、以布利センターだけでできるとは思っていません。ただ、以布利センターがジンベエザメの生態解明につながる、そのパズルの1ピースになれたらと思っています。

―とてもやりがいのあるお仕事ですね。

入野さん:そうですね。またセンターを運営する上で得た知識や技術、利益などは、土佐清水市や地元の漁師さんをはじめ、以布利センターを支えてくださる地元の皆さんに還元できればと考えています。

生き物の面白さ、不思議さ、すばらしさ…その感動を共に味わいたい

画像提供:大阪海遊館

―では最後に、海遊館に来館される方へメッセージをお願いします。

入野さん:今は技術が発達し、きれいな映像がスマホ1つで簡単に見られる時代ですが、実際に生き物を間近で見て感じられることは映像以上にたくさんあると思っているんです。

生き物の面白さ、不思議さ、すばらしさ、そういった喜びを、僕たち飼育係がお客さまに押し付けるのではなく、一緒にその感動を共有できたらうれしいですね。

また、こんなに豊かで、懐の大きい太平洋が目の前に広がっているということを、高知の人たちにはぜひ誇りにしてもらいたいです。

施設情報

画像提供:大阪海遊館

大阪海遊館 海洋生物研究所以布利センター

設立時期:1997年

住所:〒787-0302 高知県土佐清水市 以布利539番1地先

 

センター見学について:https://www.city.tosashimizu.kochi.jp/kanko/g01_kaiyukan_kenkyusyo.html

海遊館URL:https://www.kaiyukan.com/