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【高知グルメPro】地元愛されイタリアンから人気の和食屋に夜の〆の屋台餃子までそろう「廿代町」のおススメグルメ6選 食いしんぼおじさんマッキー牧元の高知満腹日記セレクション
この情報は2020年5月3日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は高知市追手筋に店をかまえ、燻製料理を提供する「土佐燻製厨房 EN」を訪ねた。
「燻製とは、食材にカーブをかけることだと思います」。
「土佐燻製厨房 EN」のご主人は、そう言われた。
言い得て妙である。
それでは早速、そのカーブを受けてみようではないか。
第1球は、「温奴 クリームチーズ 野菜」である。
かまぼこは、普段我々が知っているかまぼこそのものであるが、どこかに旅をしている。
そうチベットに行って、定住したかまぼこといった風で、どこかアジアの秘境感が漂って、面白い。
グラナバダーノチーズは、特有の旨みの後から燻製香がやってくる。
そしてフルーツトマトのおひたしときた。
これも燻製である。
トマトの新鮮な甘味がありながら、燻製香があることによってひねたような、熟成させたような時間を感じさせる。
つまり、フレッシュなのに古い感じがするという不思議である。
第二球は、「玉子焼き」が投げられた。
ううむ。これも舌と鼻が混乱している。
普通の玉子焼きの優しい甘みの中から、じわじわと猛々しい燻製香が漂うのである。
つまり、二律背反が馴染んで成り立っているのである。
第3球は、「自家製ベーコン焼きポテトサラダ」が来た。
燻製はベーコンだけでない、上に燻製チーズ焼きが乗っている。
その燻製香が、芋の甘みを引き立てて、笑いたくなるほど美味しい。
燻製とマヨネーズのバランスもよく、何を隠そう(隠さなくても誰も知らないが)ポテトサラダ学会会長の私としては、金賞を差し上げたい。
第四球は、パスタである。
耳を疑った。パスタ自体を燻製にしているのだろうか。
生パスタのジェノベーゼソース(バジリコを使ったヴェネト州の伝統料理)である。
噛み締めれば噛みしめるほど燻製香が広がるので、生麺を燻製していると見た。
一筋縄でいかないジェノベーゼといった感があり、味わいが一段と深くなる。
「どうして燻製の店を始めたんですか」と聞けば、
「はい、子供の頃から好きだったんです。そのうち自宅の庭で燻製していました。独学です」と、ご主人は嬉しそうに答える。
立派な変態である。愛すべき変態である。
その基本であるベーコンを第5球目に食べた。
生コショウが添えられた自家製ベーコンは、なんとも肉肉しく、燻製香が凛々しい。
たくましいだけではない、豚の甘みが生きているベーコンである。
燻製にしてなお、豚の甘みを際立たせるのだから、只者ではない。
それがさらに発揮されたのが、第6球、最終の球である。
いきなりご主人が言う。
「私、ハンターもやっていて、ジビエに力入れてるんです」。
また変態の匂いぷんぷんの発言である。
そう聞いたら、鹿だろう。
「肉がパサパサにならないように、ちょうどいい火入れで冷燻にかけました」と言う大豊産鹿のロース肉は、しっとりして、噛むほどに鉄分が湧き出る。
その血の味わいに、甘酸っぱい和風ソースがよく合う。
そして燻製香が、鹿の野趣を膨らます。
「食材の味にカーブをかける」は、名言である。
食べる方も、そのカーブのかかり方がどうなのか?
普段食べているものとの感じ方の違いは?
と、探りながら味わいを楽しむ。
そう。
燻製料理とは、食欲ともに、知的好奇心がくすぐられる世界なのであった。
高知県高知市追手筋1丁目「土佐燻製厨房 EN」にて