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「また一人、高知の愛すべき変態イタリア料理職人を見つけたの巻。トラットリア トロドーロ」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記 その96

       

この情報は2020年4月19日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は高知市でたった一人で35種類もの料理を提供する「トラットリア トロドーロ」を訪ねた。

また一人、高知で愛すべき変態を見つけました。

メニューを開けて、眺めた瞬間、「あ、こりゃ相当だ」と思ったのです。

店は、ご主人一人で、サービスもいません。

ところがメニューには、なんと料理が35種類もあるではありませんか。

「これお一人でやられるのは、大変ですねえ」というと

「いや、そうでもないですよ」と言われる。

変態の匂いがプンプンです。

しかも煮込み料理がずらりとある。

豆料理がずらりとある。

白いんげん豆とレンズ豆のスープ「palta e fagioli」を一口飲んで唸りました。

ああ、たまりません。

優しい味わいが広がって、心を包んでいく。

おいしいのだが、そこには、豆以上にうまくしすぎないという信念が貫かれている。

パニーニに挟んだ、日本では珍しい提供のランプレドット「il pane con lampredott」、つまり牛の第四の胃袋ギアラなどのもつ煮込みで、フィレンツェの名物料理です。

「日本ではバスケッタ(深い皿盛り)での提供はあるけど、珍しいですね」

といえば、

「はい、狙いました」とニヤリと嬉しそうに笑う。

でも、それってイタリア料理偏差値が高くない(失礼)高知の人が、どれほどわかってくれるんだと、突っ込みたくなります。

それでも、自分の信じたものを作る。

これこそ、変態でしょう。

そのランプレドットは、トロトロに煮込まれて、脂の甘みとサルサヴェルデの辛味のバランスが良く、思わず顔が崩れます。

ケイパーとオリーブの風味を効かせた「baccala alla livornese 自家製バッカラのリヴォルノ風」は、なんといってもバッカラ(干し鱈)の戻し具合が、ピタリと決まっている。

パスタは、「pici all’aglone シエナ伝統のパスタ」を選びました。

これは、なんといってもニンニクを効かせたトマトソースが素晴らしい。

ニンニクの利かせ方は凛々しく、トマトソースの煮詰め方もいい。

そんなソースが、手で丸くこねた太麺パスタのピーチにからんで、たくましく舌に迫ってくるではありませんか。

パスタ料理では、「羊とピーマンのラグーのキッタラ」も。

香りのまとめ方に、やられました。

しかも食材は、宿毛豚、土佐鴨 、夜須フルーツトマト、自家製ボッタルガ、四万十鷄、土佐和牛のカイノミと、高知の食材で揃えています。

でも、こんなに腕がいいのに、今夜は僕らしか客はいませんでした。

お腹が限界でなかったら、片っ端からもっと頼みたかったです。

シェフはイタリア修行後、京都で働き、単身高知へ来て店を開いたそうです。

「日本で一番イタリアンの人口密度の高いと言われる京都から、一番人口密度の低い土地に来てしまいました」と、彼は笑う。

「開店当初は、もっととんがって、骨つきでビステッカ置いていたのですが、誰も頼む人がいなくて諦めました。でも、今日召し上がっていただいた豆のスープだけは、頼む人いなくても、作り続けています」

というので、

「ならば常連客に声かけて、2カ月か3カ月に一回、郷土料理に特化したディナーをやれば?そこでなぜ骨つきなのか?なぜこれが美味しいのか口上を述べてからやれば、次第にファンは増えると思うよ。教えてくれたら、僕も来るから」

と、小さなお節介を述べてみました。

みなさん、高知に来る機会があれば、この人のよさそうな、煮込み好き変態シェフの元に是非おいでください。

 

高知県高知市菜園場町「TRATTORIA TORO D’ORO(トラットリア トロドーロ)」にて