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この情報は2023年4月18日時点の情報となります。
これまでたくさんの記事をご覧いただいている「高知家の〇〇」ですが、その中でも人気だった記事や、まだまだみなさんにご覧いただけていないおススメ記事を「Back To 高知家の20○○」としてご紹介します!
今回は2022年4月29日にご紹介した、室戸市で生産されている「土佐備長炭」の記事です。
これまでご愛読いただいている方も、初めて来たよという方も、是非お楽しみください!
目次
画像提供:炭遊、兵燃興業株式会社
この20年間、全国の飲食店では木炭で調理する「炭火ブーム」が続いている。中でも、京都の高級料亭から大阪の焼き鳥店まで関西の料理人に「これがなければ」と言わしめてきた高級木炭が、室戸市など高知県東部で生産される「土佐備長炭」だ。
その魅力は何か。室戸市で窯「炭遊(すみゆう)」を構える若手炭焼き職人・川田 勇さん(写真左)と、創業117年の木炭卸会社「兵燃(ひょうねん)興業」の営業部長・山田 孝さん(写真右)に語ってもらった。話が始まると、「焼き鳥1本で誰でも違いが分かる」「炭焼きは山を守っている」と、興味深い話が次々と飛び出してきて…。
画像提供:兵燃興業株式会社
―備長炭は(ブナ科樹木の)ウバメガシやカシを原木にした炭の総称で、高級なイメージがありますが、最近は焼き鳥店など、仕事帰りに飲みに行くようなお店でも「備長炭使用」と張り出している店をよく見かけます。関西では近年、土佐備長炭を求める飲食店が増えているそうですね。
山田さん:炭火ブームは続いていて、炭火料理を出す店は増えています。きっかけは20年ほど前に始まった中国産備長炭の輸入です。品質は国産より劣るものの、安く、大量に確保できるため、炭火で焼くメニューを出す店が増えました。土佐備長炭は中国産に押されて一時需要が減ったのですが、そこから新たな転機があったのです。
―その転機とは?
山田さん:中国産備長炭のおかげで「ガスより炭火の方がおいしい」と気づく店が増え、備長炭ユーザーのすそ野が広がったのです。やがて、中国産から国産の備長炭にシフトする飲食店が徐々に増えていきました。
―中国産が国産の需要を掘り起こしたわけですね。
山田さん:備長炭は土佐備長炭や、和歌山県で生産される「紀州備長炭」などがブランドです。これには理由があって、備長炭の原木となるウバメガシは、高知県や和歌山県といった、暖かな海流が流れる温暖かつ気象が荒々しい海沿いで多く育ちます。土佐備長炭は、太平洋の黒潮が流れてくる高知の風土があってこその炭なのです。
―他県では生産できないわけですね。そんな土佐備長炭は、ガスや他の木炭に比べて何が良いのでしょうか?
山田さん:土佐備長炭は赤外線をたくさん安定して出すので、食材の中までしっかり火が通ります。肉ですと、外はカリッと、中はジュワッとした食感に焼き上がるんです。ガスは燃焼時に水蒸気が発生するので、そうはならない。
そのうえ、土佐備長炭は火力が強く、火が長もちします。そして「香り」です。試しに焼き鳥店へ食べに行ってみてください。1本食べてみて、「これはおいしい」と感じる店は備長炭を使っていることが多いです。
関西だと、その多くは土佐備長炭です。科学的にはまだ十分解明されていませんが、焼き鳥にしろ、料亭の焼き物にしろ、料理の香りを邪魔せず引き立てる力があるようです。この味の違いはかなり明瞭で、私たちのような炭の専門家でなくても、みなさんでもお分かりになると思いますよ。
画像提供:炭遊
―今晩にでも焼き鳥を食べに行きたくなりました(笑)。料理の味を一段引き上げる力がある土佐備長炭ですが、どのようにして生み出されているのでしょうか?
川田さん:私の窯では、原木となるウバメガシの木を山で切り出すことから始まります。ウバメガシは足場が悪い場所に自生していることが多く、切り出すのは大変ですが、それを窯に入れていきます。
窯口で雑木を燃やして原木を乾かした上で、窯の温度を上げていくと、原木に自然に着火。窯入れから窯出しまで20~30日間かけます。皆さんがバーベキューなどで使う黒炭だと、炭は焼くと臭いが出ますが、備長炭は違います。
窯口から空気を送り込み、炭化を終えた炭の温度をさらに上げる「ねらし」という工程があり、これによって臭いのもととなるガスを抜いているのです。原木と一言で言っても、太さや状態はさまざま。特質を見極めながら、窯にどのように配置するかを考え、窯に火を入れた後は、入る空気と抜ける空気の量を調整していきます。そこが炭焼きの腕の見せ所で、技と経験が土佐備長炭の出来を大きく左右します。
画像提供:炭遊
―原木を切り出しから出荷まで、職人が一つ一つ手を加えて土佐備長炭は生まれるのですね。川田さんは炭焼きを始めて10年とお聞きしていますが、この道に入ったきっかけは?
川田さん:炭焼きをしていた同級生から「炭焼きだったら地元でメシが食えるぞ」と誘われたのがきっかけです。当時私は31歳。一からのスタートでしたし、特に夏場の窯での作業は地獄のように暑く、体力勝負の仕事です。ところが、働くうちに、窯から出てきた真っ赤な土佐備長炭を見て「すごいな、きれいだな」と興味がわき、本格的に炭焼きを学ぶようになりました。
1年半修行して、独立し、自分の窯を持ちました。土佐備長炭では、窯づくりも炭焼き職人が担います。私も、先輩に助けてもらいながら、8カ月かけて築きました。山に入って原木の伐採もするようになったのは独立後です。
画像提供:炭遊
―伐採も炭焼きの仕事なのですね。
川田さん:海に近い山々でウバメガシを切り出します。ウバメガシは切られないまま大木になると害虫の温床となり、周りの木に害を及ぼし、山を荒らします。最近は、人が入らず、荒れている山が多いのですが、炭焼きが木を活用して循環させていくことで、山の健康も守る一助になっています。
山田さん:炭焼きの方たちは「5年後、10年後にこの山がどうなっているか」を考えながら、少しずつ木を切り出します。永久に続くよう工夫された地場産業なのです。
―最近の言葉で言えば、まさに「持続可能性」ですね。地域の資源を使い、雇用を生み、地域にお金が入る。かつ、生み出された炭が料理の味を引き立て、飲食店やお客さんも喜ばせている。関西の言葉で言えば、まさに「三方よし(売り手、買い手、そして社会の三方に利がある商売)」ですね。
山田さん:毎年、京都の老舗料亭の料理人から「そろそろアユ料理の季節やし、アレがないと」と言われます。「アレ」は土佐備長炭のことです。焼き鳥店でも、土佐備長炭が入っている段ボール箱を通路わきに並べて、お客さんに「うちは土佐備長炭を使っていますよ」とさりげなくアピールされている店もあるほどです。
川田さん:飲食店から「やはり炭で焼くとおいしい」という声を私もよく聞きます。問屋さんによって等級の数は違いますが、最高級から手ごろな値段で買えるものまで土佐備長炭を10以上の等級に分けて卸されているので、地元・高知県では高級店だけでなく、最近ではビヤガーデンからも「使いたい」というお声をいただくようになりました。
―(取材した2022年3月時点で)新型コロナウイルス禍で飲食店は苦境に立たされています。影響はありますか?
山田さん:土佐備長炭は逆にニーズが増えています。「しっかりお店に来ていただける常連客を増やしたい。そのためには、より良い料理を出したい」と考える飲食店主が増え、「炭火料理を始めたい。土佐備長炭を試したいのだが…」という問い合わせが増えています。ご要望通りの量をそろえるのが大変で、生産者の川田くんには飲むたびに「もっと頑張って炭を焼いてくれ」と言っています(笑)
川田さん:この10年、土佐備長炭の単価は上がっていて、生産者としても励みになります。「炭焼きをやりたい」という30~40代が県外から高知県東部に移住するようになり、担い手も増えています。生産量も、土佐備長炭は国産備長炭の中で日本一になりました。
画像提供:兵燃興業株式会社
―山田さんは生産者を訪ねて、高知県によく行かれるそうですね。
山田さん:はい。川田くんを始め、生産者の方たちともよく飲みますよ。高知に出張で行くたびに思うのですが、「青い海と緑の山に囲まれたこの雄大な地で原木が育まれ、川田さんら若手をはじめ、そこに生きる炭焼き職人たちの手で土佐備長炭が生み出されているのだな」と感じます。
問屋としては、高知県の山を守り、地域の方の暮らしと関西の食を支えている土佐備長炭の魅力をもっと全国の方に知っていただきたいですし、新たな販路を開拓していきたいと思っています。
川田さん:炭焼きとしての自分の技術を向上させていくことはもちろんですが、「もっと山のことも勉強していきたい」と強く思うようになりました。私も土佐備長炭の魅力、高知の山の大切さを全国の方に伝えていきたいですね。
画像提供:兵燃興業株式会社
兵燃興業株式会社
代表者:古元 隆行(代表取締役社長)
事業内容:木炭の卸小売り・輸入・販売
創業:1905年(「古元商店」として創業、現社名は1949年から)
住所:神戸市中央区古湊通2丁目3-1
電話番号:078-341-5954
HP:https://www.mokutankan.com/
画像提供:炭遊
炭遊
代表者:川田 勇
事業内容:製炭
住所:高知県室戸市
連絡先:sumiyuu136@gmail.com