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「独創的料理を楽しみながら飲み交わす。大衆居酒屋で過ごす夜の巻」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記

この情報は2019年4月21日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

「いらっしゃいませぇ」。

ガラリと扉を開けたら、明るい声に出迎えられた。

ここは高知の路地裏にある「田舎家」である。

「葉牡丹」もそうだったが、ここも一人飲みじじいの聖地らしい。

カウンター席では、幸せそうに、黙々と盃を傾ける独酌客が何人か座っていた。

そのカウンター上には、ずらりと惣菜が並べられて、食欲を誘う。

なんと17種類もある。

さらにそれ以外にも50種も料理があるので、こりゃ嬉しいぞ。

先の明るい声の主は、このお店の名物女将である。

この店が人気なのは、豊富に揃った、安くてうまい料理にもあるが、きっと常連は、気さくで気働きのいい女将さんに会いたくてやって来るのではないだろうか。

その横でニコニコと優しく笑う、大将もいい。

なにか、初めて訪れたというのに、常連になったような安堵感がある。

さあ何を頼もうか。

高知ではリュウキュウと呼ぶハスイモと白身魚の酢の物もいいなあ。

リュウキュウは、味自体は淡いが、サクサクと軽やかな食感が良く、最初に胃袋をくすぐるにはもってこいである。

高知の人はよく食べるが、東京では割烹以外あまり出くわさない。

なんでも沖縄からもたらされたので、この名がついたという。

「すじ煮込み」はよくよく煮込まれていて、味噌味が丸く、そのクニャリとしなる食感と入れられたコンニャクが合う。

「アオリイカの刺身」を頼めば、分厚くねっとり甘い。

「とおちゃん焼き」は何かと聞けば、親鳥のタレ味焼きで、「かあちゃん焼き」は塩味だという。

やはり男は黒く、女性は白いのがいい。

「鉄分28号」は、カツオの心臓ポン酢がけ、「勝男パワー」は心臓炒めと、変名前オリジナル料理が多いのも、楽しいぞ。

その中でも、さっぱり想像がつかない「いまから」を頼んでみた。

聞けば「山芋をすってお好み焼きのように焼いて、ソースか醤油をかけるの。ハーフもあるわよ」と、女将さんが言う

なんでも今から山芋すって作るのでちょっと待ってね。というところからこの名前がついたという。

さあ「いまから」が登場しましたぞ。

芋の甘みと鰹節の旨みが混ざり合って、なかなかうまい。

山芋の柔らかさでまったく噛まないから、つるんとなくなってしまう。

妙に後を引くのだな。

さらに「雷コンニャク」は、炒めるときにコンニャクから出る音からついた名前で、かつお節がたっぷりとかけられる。

鯨皮と大根を煮た料理は、皮下のコラーゲンから出た旨味が、大根に染み込んで笑顔を呼ぶ。

「ポテサラ」は、大衆酒場的王道で、強いマヨネーズ味にきゅうりとリンゴが入っている。

ここでまたひとつ、想像のつかない料理を頼んでみた。

「しのちゃん」である。

登場すれば、醤油味の炒り卵でネギと豆腐が入っている。

炒り卵はしっかり炒まっているのに、豆腐の角切りはふわふわで、卵か豆腐かわからん感じなところに、ネギがアクセントする。

また醤油は香りづけで、隠し味程度なのがセンスいい。

名前の理由はわざと聞かなかった。

昭和38年創業だから、数え切れないほどの常連がいただろう。

その一人が特別に頼んで作ってもらったのかな?

それともしのちゃんという、料理好きなおばさんがいたのかな?

そんなことを考えながら、酒を飲むのも楽しい。

こうして高知の夜は、とっぷりと暮れていく。

 

高知県高知市本町3丁目「田舎家」にて