高知家の◯◯高知家の◯◯ 高知県のあれこれまとめサイト
高知県のあれこれまとめサイト
  • facebook
  • x
  • instagram
  • youtube
  • トップ
  • >
  • グルメ
  • >
  • 【高知家の〇〇特別企画『高知に来たら必ず訪れたい店』】二代目店主が心豊かな時を醸すオーセンティックバー「フランソワ」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記
 

【高知家の〇〇特別企画『高知に来たら必ず訪れたい店』】二代目店主が心豊かな時を醸すオーセンティックバー「フランソワ」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2023年3月12日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、高知家の〇〇の2000記事公開記念企画「マッキーさんが高知に来たら必ず訪れたい店」の第三弾として、高知市のオーセンティックバー「フランソワ」をご紹介します。

高知市内で散々美味しいものを楽しんで、さあホテルに帰ろうかという時、どうしても寄りたくなるバーがある。

道路にさりげなく、「GUINNESS PUB フランソワ」の看板を掲げ、FRANCOISと記されたアール・デコ調のガラス窓が、待ち構えている。

木の扉を引くと、右手にカウンターが伸び、左手にベンチシートが配されている。

長年の客の愛着と酒が染み込んだ店内に「いらっしゃいませ」と、店主バーテンダー三好 誠さんのバリトンヴォイスが響く。

その心地よい声を聞いた途端に体がほぐれ、まだ酒を飲んでいないのに、安堵感が広がっていく。

「お腹いっぱい食べてきたので何か、そうだ、フェネルブランカはありますか?」と聞くと、マスターは答えられた。

「いえ、それはないので、イエガーマイスターかウンダーベルグではいかがでしょうか」。

「ではイエガーマイスターをください」。

「そのままお飲みになりますか? ソーダで割られますか? それともカクテルにしますか?」と、聞かれたので、

「カクテルでお願いします」と、頼んだ。

イエガーマイスターを使ったカクテルとは珍しい。

すると、高知の柑橘である文旦を漬け込んだウォッカと、文旦のジュースとイエガーマイスターをステアして出してくれた。

食欲増進のお酒として、甘苦い、飲み薬を感じさせる酒だが、それが文旦の力を借りて爽やかに変身している。

今の気分に丁度いい。

このようにフランソワでは、その日の気分にピタリと添ったカクテルを作ってくれる。

「フランソワ」の創業は、1965年、東京オリンピックの翌年で、カラーテレビが登場し、皆がプロレスに熱狂し、アイビールックが流行り、加山雄三の「君といつまでも」がヒットしていた時代である。

引退された初代のマスターは、ずいぶんな遊び人だったという。

毎晩毎晩、何軒も飲み歩いていたが、全てツケで、支払いは母がしていた。

同じ月に同じキャバレーから、何枚も請求書が届く。

それを見たおばあちゃんが、「1ヶ月は何日やったかね?同じ日の請求書が何枚も来ちゅうけんど」と、突っ込まれたほど、飲み歩いていたらしい。

あまりの飲みっぷりに、「それだけ飲むなら、自分で店やったらえいやんか」と言われたのが、飲食店を始めるきっかけだったという。

おじいちゃんからは、「やるなら鰻屋にしろ」と、勧められたが、しんどそうなのでバーにした。

「フランソワ」という名前は京都の老舗喫茶店から取った。

岡本太郎ほか、数多くの文化人が訪れた喫茶店である。

バーは、多くの人から愛された。

そのバーで、学生時代にアルバイトを2年間していたのが、現在の二代目の三好さんである。

卒業後、 会社勤めをしていたが、98年31歳の時に転職されたという。

今度はサイドカーをお願いした。

パリの「ハリーズバー」で生まれたこのカクテルは、コニャックとホワイトキュラソー、レモン汁を混ぜたカクテルである。

だがマスターは一捻り、コニャックはフラパンを使用し、コアントローブラッドオレンジとキュラソーをシェイクして注いでくれた。

シェイクするときに、オレンジのスライスを入れている。

コニャックの厚みがありながら、単純なオレンジではない色気がある

甘みと酸味のバランスが良く、後味も綺麗に消えていく。

すっかり気が良くなって、今度はウィスキーを頼むことにした。

実はマスター、古いウィスキーも集められている。

取り出したのはサントリーのロイヤルであるが、ロイヤルの下に12と書いてあるところから、年代は24年前、僕が43歳の時の酒である。

古いウィスキーを集められているのは、大量生産の時代でなかったからである。

もちろん変わってないウィスキーもあるが、マスターいわく「昔の方が樽感や複雑味がある。今のものは“たっすい”です」。

それは僕がここに来る理由でもある。

古いウィスキーやカクテルが美味しいだけではない。

マスターの立ち振る舞いや何気ない話、そして年を重ねた店の空気に、若い店にはない、重厚で複雑な味わいが得られるからなのである。

その味わいをウィスキーやカクテルと合わせる。

すると、どこにもない酒が生まれ、心を豊かにするのである。

 

 高知県高知市追手筋1丁目「フランソワ」にて