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【閉店】老舗うどん屋の品書きにある「おばけ」ってなんだ?「うどん処 ゆたか」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2022年7月31日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は高知の老舗うどん屋「うどん処 ゆたか」を訪ねてきました。

店に入ると、ご主人がうどんを打っている最中だった。

何回も何回も、伸しては伸し、打粉をしながら麺棒で伸していく。

伸しながら、傍で茹でているうどんの具合を確かめる。

指先を水で濡らしながらうどんを何度も触っている。

10回ほど確かめたところで、一気に冷やしに入った。

その間、何人もお客さんが入ってくる。

ご主人もまた、うどんを愛しているのだろう。

うどんをのばし、茹で具合を確かめる仕草に、ただの作業ではない熱情を感じる。

うどんの固さを確かめる指先は、まるで生き物を触っているかのように優しい。

まずは「釜揚げうどん」が運ばれた。

たらいの中で艶やかなうどんが湯気をあげている。

箸で持ち上げると、麺が長い。

汁につけ、すすれば、表面滑らかだが、噛むとねっちりとしている。

その食感は、うどんが歯に少し甘える感じがあって、思わず微笑んだ。

さあ次は冷たいうどんである。

肉おろしである。

この店で一番の人気というこのうどんは、冷たいうどんに汁がぶっかけられ、甘辛く炊いた牛ばら、大根おろし、胡麻、刻み葱を乗せたうどんである。

ずるるっ。

牛肉の脂の甘みがうどんにからんで、なにかうどんがたくましくなる。

大根おろしを混ぜ込めば、脂の甘みをちょいと引き締め、こりゃ止まりません。

さあ、もっといってみよう。

お品書きを見た時に、これは何?と思った、「おばけ」である。

こういう時は、迷わず頼む。

「このおばけとはなんですか?」などとは聞かず、運ばれてきてからの楽しみとする。

果たして「おばけ」は、きつねうどんであった。

丼一面に、分厚いお揚げが一枚乗っている。

この熱々のお揚げのおいしいこと。

噛めば、しっとりと染みた甘い汁が飛び出して口の中を埋める。

そこですかさずうどんをすするのだ。

温かい汁のうどんも、いい。

あのご主人のうどんに対する優しさがにじみ出ているかのように、しなやかで、ふんわりと小麦の甘い香りが鼻に抜けていく。

さあ最後は、カレーつけめんの辛口といってみよう。

ああ、これは絶対ここにきたら頼むべきだろう。

冷たいうどんを熱々のカレーつけ汁につけてすすった途端にそう思った。 

ひんやりとした麺は、しなやかで、ほのかに甘い。

しかしながら、つけ汁は辛く熱い。

この相対的な関係がいい。

冷たいうどんが、熱々をくぐる感じもいい。

撫でられながら殴られるような、相反する感覚がたまらない。

二日酔いの時には必須のうどんだろう。

最後にご主人に話を聞けば、うどんは季節で打ち方を変え、夏は細めで冬は太めに打つのだという。

理由は、夏は冷たいうどんが、冬は暖かいうどんが出るためである。

それを14〜5分茹でて、このうどんが仕上がる。

最後にこの地で何年やっておられるかを尋ねた。

「はい35年、夫婦で、ようよう(やっと、の意の土佐弁)やってます」。

ご主人は優しい笑顔で言われた。

高知県高知市中万々72-14「うどん処 ゆたか」にて