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「ちりめん丼は、こじゃんとうまいがやき!」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2018年9月23日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすタベアルキストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

「いらっしゃいじゃこぉ〜」。

食堂に入ると、サービスのおばさんたちの可愛い掛け声がかかった。

ここは安芸市「安芸しらす食堂」である。

専門の水産会社「安芸水産」の工場に隣接している。

なにしろ獲りたて、ゆでたてのしらすが、時間をかけずに食べることができる。

そのため人気を呼び、休日には1日千人のお客さんが来るという。

それでは、基本の基本「釜揚げちりめん丼」を頼もう。

「お待たせ、じゃこぉ〜」。

おばさんがまた可愛い掛け声で運んできた。

平たい丼の上は、一面釜揚げしらすである。

ご飯は、全く見えない。

「ゆずポン酢をかけては食べ、かけては食べてね。そしてもっと酸っぱいのが欲しくなったら、ゆず酢をかけてね」と、おばさんが指導してくれた。

だが。まずは何もかけず、素のままで食べることにする。

おおっ。しらすの柔らかい塩気とほのかな甘みが、ご飯を恋しくさせるではないか。

次にゆずポン酢を1〜2滴かけてみる。

うむ、酸味が効いて、食欲が加速する。

だがかけないほうが、しらすの味が生きる。

悩むところだな。

やはり僕は、何もかけない派かな。

淡い淡いしらすの甘みが、次第に舌に積もってきて満たされる。

その過程がいい。

いたいけなしらすが、主張をし始める、その時の流れがいい。

しらすの甘みに神経を傾けながら、一心不乱にご飯を掻き込む。

その姿勢がいい。

ほら、気がつけば、もう丼は空である。

なにか春の陽だまりに似た温かみが、体に宿っている。

この充実感がしらす丼の魅力だな。

「ごちそうさま」とおばさんにいうと

「ありがとぉじゃこぉ〜。またいらしてじゃこぉ〜」というので、

「おしかったじゃこぉ〜」と返したら、子供のような屈託のない顔で笑われた。

おばさんありがとね。また会いに来るじゃこであります。

隣接した工場も案内してもらった。

設立は2013年3月20日、若い会社である。

元々は父親の建設業を継ぐ予定であった、現社長の山本高正さんは、漁師が減り、水産加工業が減るのを見ていて、なんとかしょうと思い立ったのだという。

県からの依頼も受け、なんとか高知の魚の魚価をあげていくことを考え、その一つがしらす加工だった。

東京ではしらすといえば神奈川県や静岡県だが、それに比べて高知の海はさらに綺麗である。

当然ながらしらすの味も澄んでいる。

名門明徳義塾高校で野球選手だったという山本さんは、持ち前の粘り強さと根性でゼロからの会社を盛り上げ、いまはしらすが足りないくらいだという。

もう一度、食堂に戻り、デザートを食べることにした。

しらすソフトクリームである。

しらすがソフトの山を登っていくようで、可愛らしい。

それでは、パクリ。

はは。面白い。ソフトクリームを食べているのだが、ご飯が欲しくなる。

ソフトの甘みにしらすの塩気が出会うと、なぜかチーズの風情漂う。

大抵のものは、ソフトにまみれ抱かれてしまうが、しらすは気を許さない。

甘さに堕落することなく、独立している。

しらすはしらすというプライドに満ちていた。