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【高知グルメ】「珈琲の魅力を伝えたい」薬剤師でもある店主の想いが詰まった「気ままに珈琲」ほっとこうちオススメ情報
この情報は2019年10月7日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。
全国広しといえど、高知にしかないラーメンである。
注文すると、沢庵が乗った小土鍋が運ばれる。
蓋を取ると、醤油の匂いとともに猛烈なる湯気に包まれた。
焦げ茶色の、まだグツグツとたぎっているスープに、うっすらと油が浮かび、青ネギとちくわが散らされている。
鍋の真ん中には生卵が落とされ、スープの熱で白身はかたまりつつある。
そんな具の隙間から、薄黄色の細い麺が顔を覗かせている。
ここは、須崎名物の鍋焼きラーメン、「まゆみの店」である。
元々は、戦後すぐに須崎市で開業した「谷口食堂」(今は閉店)が考えたラーメンであるという。
スープを慎重にすする。
熱い。相当に熱い。
息をかけながらゆっくりスープを飲み、麺をゆっくりとすする。
醤油味のスープは、醤油味も塩もしっかりとあって、うま味が濃い。
優しい甘みも潜んでいる。
麺は煮込まれているというのに、コシの強く、シコシコと歯の間で弾む。
麺のシコッ、ネギのシャキシャキ、ちくわのふんわり、親鶏のクリッと、異なる食感が、ハーモニーを奏でる。
それが楽しい。
合間で、発酵して酸味がにじみ出た沢庵を、ボリボリとかじるのも良い。
つゆの濃度が濃いので、卵の黄身をつぶしても、溶けていかない。
鶏油に覆われているので、最後まで熱々である。
この香ばしい鶏油と、甘辛い味わいで、当然ながらご飯が恋しくなる。
ご飯をもらって、掻き込む。
笑う。
二度美味しい上に、困ったことがあった。
二、三日経つと、また無性に食べたくなるのである。
高知県須崎市栄町「まゆみの店」にて
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お母さんが目の前の鉄板で焼きそばを作る。
ニラを入れた時、思わず「ウソだろ」と叫んでしまった。
それほど大量のニラが投入されたのである。
これは、「ニラ塩焼きそば」というより「そば入りニラ塩焼き」と呼んだ方がいいんじゃないか。
それほどにまで思ってしまう、お姿なのである。
麺とニラの量が逆転して、ニラ炒めの中で、時折麺に遭遇するといった具合だが、食べるとどうだろう。
口に運んだ瞬間、「うまいっ」。思わず叫んだ。
ニラが甘い。とにかく甘いのである。
柔らかくて、シャキシャキと千切れて、歯に挟まることがない。
しなやかに他の具や麺と抱き合う。
甘く、香り高く、ワシワシ猛然と、鼻息を荒くして食べさせてしまう力がある。
途中でレモンをかけると、その酸味がいっそうニラの甘みを生かした。
ああ、箸を運ぶ手が止まらない。
聞けば周りがニラ畑なのだという。
「美味しかったです」というと、お母さんは言われた。
「朝穫れ、産地直送じゃなきゃ、この味は出せないの」。
その言葉が忘れられない。
高知県香南市夜須町上夜須「廣末屋」にて
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何と言っても、ロケーションが素晴らしい。
山奥の一軒家で、眼下を流れる川のせせらぎと、木々の葉が風に揺すられる音、そして陽光が指す山々の景色を眺めながら蕎麦をすする。
蕎麦にとってこれほど幸せな光景はあるまい。
ここでの昼酒ほど、幸せな時間の過ごし方はないだろう。
運ばれて来た蕎麦を手繰る。
「ずるるるっ」と勢いよく手繰れば、野趣に富む、草の香が漂う。
蕎麦はしなやかで、ほのかに甘みを秘めている。
しばらく食べたら、窓を開け、蕎麦を窓の外に出して陽を浴びさせたのち、再び手繰ってみた。
沢や木々の香りと蕎麦の香りが入り混じる。
蕎麦を手繰る音と渓流のせせらぎが共鳴する。
体に流れ込んだ清涼な空気が、蕎麦を生き生きと輝かす。
一生忘れることなき、蕎麦体験であった。
高知県吾川郡いの町中野川「時屋」にて