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「彼のイタリア料理を食べに、わざわざ足を延ばしたい。そんな、愛すべき変態が、土佐町にいる。」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2019年4月14日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

「大丈夫かな」。

店構えを見て、失礼ながら不安になった。

ここは高知市内から車で一時間の山あいにある土佐郡土佐町である。

そのイタリア料理店はスーパーマーケットの片隅で、申し訳なさそうに、ひっそりと営業していた。

どう見ても、イタリア料理店の雰囲気がなく、近所のファミリーレストランといった風である。

「いらっしゃいませ」。

ドアを開けると、人懐こそうな顔をされたシェフが出てきて、挨拶をされた。

どうやらお一人で切り盛りしているらしい。

聞けば、昼はサービスの女性を雇っているが、夜は一人のために、ひと組だけの予約しか受けておらず、予約のない日は休むのだという。

普通、飲食店では、昼より夜の売り上げが多い。

そのため、夜しかやっていない店もある。

しかしこの店は逆である。

おそらく土佐町では、夜にイタリア料理へ行こうという人が少なく、苦肉の策として、こうした営業形態をとっているのだろう。

メニューを開けて、入念に読み込んで見た。

各種ハム、ソーセージ盛り合わせやカプレーゼ。カルボナーラやペペロンチーノ。

どのイタリア料理店でも見かける、おなじみの料理名が並んでいる。

まずは無難に行こうと思い、「ハムやソーセージ類は何があるんですか?」と聞いてみた。

「今日は三種類の自家製サルシッチャ(イタリア風ソーセージ)があります。ハム類は、生ハムもご用意できますし、自家製のモルタデッラとソプレッサータもあります」。

耳を疑った。

東京でも モルタデッラハム(豚脂やひき肉で作ったハム)やソプレッサータ(豚の頭部分や耳、舌で作ったハム)はイタリアの市販品を使い、自ら作っている人は、ほとんどいない。

失礼ながら地元の人にとって、サルシッチャ、モルタデッラ、ソプレッサータといっても何のことかわからないだろう。

自家製といっても理解者は皆無だろう。

それなのに関わらず、手間のかかる仕込みをしている。

好きなのだろう。

お客さんに理解されようが、されまいが、関係ない。

自分の思うままに進む。

こういう変態は、大好きである。

前菜は、その自家製ハムソーセジ類をいただいた。

モルタデッラは、余計な旨味がなく自然な味で、どこまでも優しい。

ソプレッサータは、コラーゲンの甘みに富んでいて、笑い出したくなる。

豚もも肉とはちきん地鶏のレバーによる、パテドカンパーニュ、はちきん地鶏レバーのパテも丁寧な仕事ぶりが光っている。

一方自家製ソーセージは、コラーゲンの旨味が弾ける土佐あかうしの首、後から鉄分湧き上がる鹿肉、鳥の香りに満ちた胸やモモ肉によるものなど三者三様の個性があって、実に楽しいのである。

さらに他の料理も、間違いがなかった。

「インサラータカテリーナ」は、羊のチーズ、自家製塩漬けアンチョビ、ケイパー、トマト、葉っぱ類、ゆで卵によるサラダで、旨味が深いアンチョビの練れた塩気が効いている。

「トリッパの煮込み」はイタリア仔牛の胃袋を使い、ミントを効かせたローマ風である。

パスタは王道の「トマトソース」と「ボロネーゼ」をいって見た。

徳谷トマトを使ったというトマトソースは太陽の香りに満ち、

土佐あかうしのたくましさと豚肉の優しさが抱き合ったボロネーゼは、旨味が穏やかで丸い。

もう止まらない。

「カルボナーラ」も頼んでしまった。

すると、自家製パンチェッタの優しい塩気とグラナパダーノとペコリーノの旨味、卵の甘み、黒胡椒の刺激が一体化した、正統派のカルボナーラではないか。

メインにいただいた「はちきん地鶏のアロスト(ロースト)」は、十二分に運動させた鶏ならではの滋味に富んでいた。

「イタリア料理って、シンプルに食材を生かすだけで、ソースも少ないので、簡単そうに見えるけど、実は時間がすごくかかる料理だと思います。だから今まで自分の時間を削ってやってきました」と、そうシェフは苦労を言われたが、その顔は妙に嬉しそうなのであった。

やはり愛すべき変態なのだなあ。

 

高知県土佐郡土佐町田井「オンベリーコ」にて