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「伊勢海老は脚がうまいのである」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記

       

この情報は2018年9月18日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすタベアルキストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

「ギィ、ギィッ、ギィッ」。

伊勢海老が身を反らせながら、鳴いている。

見事にでかい。

今朝獲れた伊勢海老だという。

ここは高知県須崎市浦の内池ノ浦にある伊勢海老料理店、「中平」である。

標高約120m、山の中腹を貫く横波スカイラインから海岸へ降りること5分、静かな漁港に着く。

この地で「中平」は、40年前に店を開いた。

伊勢海老は毎朝、刺し網漁で獲っているのだという。

「以前より減ってきて、規制もしゆうけんど、まだまだ豊富に獲れるがよ」と、「中平」のご主人は胸を張った。

森に隣接した土地がいいのだろう。

木々から流れ出た養分が、急勾配の土地を伝わって海に流れ込む。

豊富な微生物が発生し、海藻が育ち、貝類やウニなどが活動し、それらを伊勢海老がせっせと食べる。

そんな循環が活発な海なのだろう。

伊勢海老の旬は、産卵期を終えて身が締まってくる10月から1月とされるが、ご主人に聞くと、「年中おいしいよ」という。

この漁港の生育環境が、いかに肥沃であるかの証明である。

伊勢海老は生きているものしか使わない。

朝獲ったものを生簀で生かし、取り出せば先ほどのように元気良く動き、鳴く。

まずは刺身である。活き造りである。

半透明な乳白色の刺身に、うっすらとピンク色が刺して美しい。

先ほどまで生きていたやつである。

いや刺身にされてもまだ生きている。

噛めば、生の気配がある。

シコシコッ。クイックイッ。

伊勢海老が歯の間で弾み、噛んでいくと甘みがにじみ出る。

醤油とわさびが用意されるが、何もつけなくともエビ自体にほのかな塩分があって、それがエビの甘みを膨らます。

伊勢海老の刺身は、慎重に、よく噛んだ方がいい。

噛んでいくと、30回くらいからねっとりとして甘みが増すのである。

肝も生で出されるので、こいつを刺身にまぶしてたべれば、日本酒がたまらなく恋しくなるぞ。ちきしょう。

さあ刺身の後は鍋である。

熱々の鍋に伊勢海老がぶち込まれる。

透明な身が、純白に変わったところで引き上げ、かぶりつく。

甘みの品がいい。

エレガントな風味が溢れ出て、穏やかな気分になる。

胴体や味噌、脚と食べ進んで気がついた。

胴体よりも脚がうまい。

細い細い脚先まで身が詰まっていて、どんなに細くても身がしっかりして甘い。

直径2mmくらいでも、存在感がある。

海底の岩をしっかりとつかむためか、蟹よりマッチョなのである。

だからはっきりと宣言しよう。「伊勢海老は脚がうまい」。

そのため、殻ごとしがんで潰してはいけない。

脚先は、爪をちぎって慎重に抜けば綺麗に出てくるし、それ以外は節をちぎって抜けば、蟹より筋肉質なので、簡単に抜ける。

片っ端から脚を抜き出し、並べてみた。

それを、鍋にさっとくぐらせ食べる。

うまい。

エビの風味が凝縮した、笑いが止まらぬ雑炊に、脚を入れて食べる。

うまい。

こんな食べ方を楽しめるのも、池ノ浦の海が滋養に富んでいるからだろう。

「ありがとう」。

部屋から見える海に向かって、深々と感謝した。