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「バナナ、リンゴに米。様々な高知の産物を使って作るクラフトビールは、妻への愛に溢れていたの巻」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記 その94

       

この情報は2020年4月5日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は香美市にある小さな醸造所「高知カンパーニュブルワリー」を訪ねた。

もし高知に行くことがあったら、必ず飲んで欲しいビールがある。

それが小さな小さな醸造所で作られている”TOSACO”である。

醸造所を訪ね、やられている瀬戸口信弥さんに、なぜビール造りを始められたのかを聞いてみた。

すると、「妻と一緒にビールが飲みたかったんです」。

そう涼やかな目で答えられた。

「元々ビールが大好きで、よく飲んでいました。ところが妻は、ビールが嫌いだったんです。一緒にビールを飲みたいなあと思ったのがきっかけだったんです」。

そうして3年前の1月、関西で電気技師をされていた彼は、会社を辞めて、島根県石見麦舎で修行をし、高知に移り、ビール造りを始められた。

「高知に何回かくるうちに、自然が好きになり、以前から高知に住みたいと思っていたんです」と目を輝かす。

通常市販のビールは、長い間の品質を保つためにフィルタリング(濾過)を入念にする。

そうすると色も綺麗になり、長い期間品質が安定するが、フィルタリングで旨味が抜け、苦味が残り続けるようになってしまう。

そこで瀬戸口さんは、ビールの苦手な妻が飲めるようにフィルタリングはせず、酵母を取り除かないことにより、旨味のあるビールをつくろうとされた。

さらにある日、奥さんがIPAなら飲めると言ったことにヒントを得て、甘味と苦味のバランスが良く、酵母の旨みが生きたビールを目指すようになった。

(IPA:インディアペールエールの略称。18世紀末、インドがイギリスの植民地だったころに、インドへの輸送に耐えられるよう、麦汁濃度を高くしホップをたくさん使用することで誕生したスタイル。アルコール度数は高めで、ホップの苦味も強いのが特徴)

こうしてできたTOSACOは、種類も増え、米や柚子、バナナや日本酒酵母といった高知県産の要素が加えられて作られる。

飲めば、高知の雄大な自然があり、瀬戸口さんの誠実で優しい人柄が、味に染みている。

「土台の甘みがちゃんとあれば、ある程度苦味があっても飲めるんです。ホップ感はそのまま。苦味は抑え気味でアロマを生かすんです」。

「ゆずペールエール」は、甘み強めで、苦味と甘味のバランスがよく、ほのかにゆずが香って切ない。

「IPA」は、焦げ香があって、酸味と苦味、甘味のバランスが素晴らしい。

日本酒酵母を使った「和醸ケルシュ」は、お酒の酵母が持つバナナ香が逆に出ず、杏のような香りが鼻に抜ける。

杏に醤油香が少し漂うところが面白い。

こうして高知の産物を使って作ったビールは、米のホワイトエールは、国際大会銀賞を獲得し、和醸ケルシュは日本大会で金賞を獲得したという。

「よさ恋バナナヴァイツェン」も、やはり傷などがついて商品にならないバナナを使っている

元々、よさ恋バナナはバナナ香が強いのに、さらにバナナ感を強くすることを目指したビールは、飲むと一気に南国へと旅をさせてくれる。

バナナケーキやバナナそのものにかけてみても面白いだろう。

さらに、傷がついて破棄される高知産のリンゴを使った「アップル ブラウンエール」はモルトの雰囲気にリンゴ甘い香りが乗ってくる。

目を閉じれば、タルトタタンや焼きリンゴの味わい姿が浮かぶビールである。

「レイホクのリンゴ農園を助けるために、このビールを作り始めました」。

「こめホワイトエール」は、ライトな飲み口で軽やかな香りだがコクがある。

最後に奥さんの瀬戸口香帆さんに尋ねてみた。

「旦那さんがいきなり仕事を辞めて、ビールを作り出すと言われて戸惑いませんでしたか?」

「はい。でも若いうちは、好きなことをやればいいと思っていましたから」とさらりと返された。

そう。“TOSACO”を飲めば、高知の雄大な自然があり、瀬戸口夫婦の誠実で優しい人柄が、味に染みている。

高知県香美市土佐山田町栄町「高知カンパーニュブルワリー」にて