立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」
田んぼの真ん中の一軒家である。
ぽつねんと佇む一軒家は、イタリア料理店であった。
店名は、「da zero(ダ ゼロ)〜自然イタリア料理〜」という。
「いらっしゃいませ。おまちしておりました」。
扉を開けると優しい笑顔をされたシェフご夫婦に出迎えられた。
窓からは、のどかな田園風景が望める。こんな光景を眺めながらの食事は、なんと心地いいのだろう。
グルッシーニが出され、そのあと運ばれた2月の一皿目は、カリフラワーだった。
カリフラワーのムースが中央にぽってりと鎮座し、佐川町黒岩の苺と生ハムが脇を固め、周囲に黒オリーブの粉が散らしてある。
むむ。カリフラワーがなんとも優しい甘味を広げる。
そこへ生ハムの塩気、苺の甘酸っぱさ、オリーブの香りが加わり、食欲を刺激して行く。
続いての前菜は、須崎産の「真鯵のカルパッチョ ルネッサンストマト トマトのゼリー」だ。
鯵の上にルネッサンストマト、プンタンとセロリ、トマトゼリーが乗せられ、輝いている。
鯵に雑味が微塵もなく、実に綺麗な味である。
海の水を飲んでいるかのような、純真さがある。
だからだろう。それが上の野菜たちと共鳴するのだ。
トマトの旨み、セロリの香り、プンタンの酸味。生トマトの甘味が重なり合い、エレガントを生み出す。
続いては、肉の前菜で「窪川米豚の自家製パテと越知町大平かぷのピクルス」である。
パテは、窪川米豚の質の良さを感じさせるきれいな味わいで、ピクルスや添えられたグリーンマスタードの辛酸味のバランスがいい。
さあ次はパスタである。
自家製手打ちパスタのタリアテッレは、越知町 アマガエル農園の無農薬の小麦と土佐ジローの黄身を使ったのだという。
鰆燻製と春菊のピュレ、砕いたヘーゼルナッツを合わせたソースである
ああ、鰆がなんともうまい。
噛みしめるほどに旨みが滲み、燻製の香りでたくましい。
そこに春菊の香りが添い、ヘーゼルナッツの香りと食感がアクセントする
見事な組み合わせである。
主菜は、地元で評判な松田精肉店から仕入れたという「黒毛和牛もも肉ロースト マルサラワインと黒豆のソース」 である。
紅菜苔とロマネスコが添えられる
内腿赤身肉の鉄分とマルサラの深い旨みがとけあい、そこへ黒豆ソースの穏やかな甘い香りが漂う。
なんと優美な肉料理なのだろう
自然の中で料理しているからこそ生まれた発想なのだろうか・
続いて再びパスタ料理が登場した。
「栗粉を練りこんだアニョロッティ 大豊町 猪のラグー」である。
猪の詰め物をしたパスタは、猪の甘味の後から栗の香りが追いかける。
そしてまた甘酸っぱいきんカんソースが素晴らしい。
蜂蜜をキャラメリゼして、煮詰めたシェリヴィネガーと白ワインを入れ、煮詰めて羊の骨の出汁をいれ、最後にキンカン入れてバターでまとめたものだという。
目をつぶれば、猪が栗を食べている姿が思い浮かぶ、素晴らしい皿であった。
最後に「チョコムース 焼きポンカン ヌガーグラッセの取り合わせ」がドルチェで出された。
この中では、香ばしい焼きポンカンが特にいい。
的場シェフは兵庫出身で、神戸、大阪で修行をし、イタリアに渡って修行し、帰国してからも大阪で働かれていた。
きっかけは、お子さんが生まれたことだったという
子供が生まれて環境のことを考えるようになり、果たして都会で暮らして幸せなのか。子供にとっていいのか考え、移住を決意された。
高知県佐川町は、奥さんの祖母の実家だったこともあり、ここに店を作ることになったのだという。
「現在は横が自宅なので、家族との時間も持てるようになりました」。
そういって的場さんはまた優しい笑顔を作られた。
店名には「自然イタリア料理」という名前がついていた。
ロケーションが何と言っても自然の只中であるし、久礼の中里自然農園をはじめとして、無農薬や有機栽培の野菜を使うなど、安心安全な本来の自然の力を持つ食材を使われていることも、“自然”である。
だがなによりも、都会を離れ、この田舎で働く姿こそ、人間の生活にとっての“自然”なのだと思った。
高知県高岡郡佐川町「da zero 〜自然イタリア料理〜」にて