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「難関の先に広がる平安。山奥でインド人が一人で作るカレー店とは?」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記 その80

       

この情報は2019年12月15日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

「本当にこの先に店あるの?」

本気で質問をした。

それほどに山道は険しく狭い。

狭い道は曲りくねり、自動車を拒否している。

こんな不便な場所に飲食店を開こうという人は、まずいない。

「いや、グーグルはこの方向を指しています」。

運転者も必死である。

不安と戦いながらも、突き進んでいった。

しかしこの不安の先に、平安が待っていたのである。

道の先の上り詰めた場所に、ようやく店が見えてきた。

名前は、「永渕食堂シャンティ」という。

インド人のビヌさんが営むインド料理店である。

早速、「Non Veg Plate」という定食を頼む(他にあるのは、Veg Plateだけである)。

料理ができる間、外のベンチでまどろむことにした。

鳥の声と風の音しか聞こえない。

陽光が優しく、頬を撫でる。

ああ、平安である。食べる前から至福が、ゆっくりせり上がってくる。

「お待たせしました」。

ビヌさんがカレー定食を運んできた。

楕円の皿の中央には、器に入れられた親鳥の無水カレーが置かれ、周りには、ご飯にかけた豆カレーにパパド(インドの薄焼き煎餅状パン)、ひよこ豆に人参と茄子のサブジ(炒め煮)、じゃがいもとカリフラワーのサブジ、辛いポテトサラダ、きゅうりと紫玉ねぎ、トマトのサラダが配置されている。

まず、親鳥の無水カレーからいってみた。

ああなんとも滋味深い。

彼が作るのだから、そりゃあ都会にも負けない本格的インドカレーなのだが、都会で食べるのとは違い、なにか心が温まってくる。

辛さの向こうに、慈愛を感じるカレーである。

豆カレーも、豆の甘みが生きていて、しみじみとうまい。

これは混ぜなくてはと、パパドを割ってかけ、それぞれをご飯に混ぜ込む。

ううむ。芋の甘み、鳥の旨味、カリフラワーの淡い甘み、ナスの甘み、人参の香りなど野菜や鳥の様々な味わいが舌の上で弾け、その中をスパイスの香りが抜けていく。

渾然となった旨味が、コーフンを呼ぶ。

ええいもっと辛くしてやれと、卓上に置かれたチリクミンをかければ、ますます興奮は高まり、スプーン持つ手が止まらなくなる。

一気に食べ終えた。

しかしどうしてこんな不便な場所でやっているのだろう。

ビヌさんに聞くと、平日は一人もお客さんが来ない日が多いという。

それなのになぜ? ますます疑問は深まる。

ネパールの近く、ビハールという場所の出身で、日本には2012年にきたという。

しかし山に住みたいと思い、各地を紹介されたが、この地を選んだのだという。

違う仕事をしていたが、元々料理が好きだったので、飲食店を始めることにした。

店名は、集落の名前である。

「なぜ、この土地を高知を選んだのですか?」

移住をして、1年数ヶ月になるというビヌさんに訪ねた。

「人が優しい」。

穏やかな目をしたビヌさんは、そう言って笑った。

その時、なぜこのカレーが心を温めるのか、なぜ食べていると平安な気持ちになるのか、わかったような気がした。

「もっともっとたくさんの人に食べてもらいたい」。

集落の名前の後に、平和という意味を持つヒンズー語のシャンティをつけた、ビヌさんはいう。

大丈夫さ、みんなに伝えるよ。

高知の山奥に、友愛に満たされた平安があることを。

 

高知県長岡郡大豊町永渕「永渕食堂 Shanti」にて