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【高知グルメ】「珈琲の魅力を伝えたい」薬剤師でもある店主の想いが詰まった「気ままに珈琲」ほっとこうちオススメ情報
この情報は2021年4月25日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす美食おじさんマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は、高知県東部の港町、室戸市の「釜飯 初音」にお邪魔した。
朝一番で自然薯丼といなり寿司、次に北川村で田舎寿司、高知県の東の端っこ、東洋町でこけら寿司を食べた一行は、南下して室戸岬へと向かった。
ここで名物の釜飯を食べるためである。
その店「初音」が開店したのは、室戸岬が漁港として賑わっていた昭和初期である。
当時は、マグロと鯨漁が盛んで、室戸には船主さんが300人もいた。
当然ながら多くの飲み屋ができてどの店も連夜満席だったという。
店は、現店主の祖母である初江さんが作られた。
店名はその祖母の名前と初音鶯の鳴き声からとったという。
最初はカフェで、流行っている飲み屋に転向しようとも考えたらしいが、将来娘を飲み屋で働かせるのが嫌でご飯屋にしたい。
ならばご飯料理を主体にした食堂にしよう、と考えて釜飯を思いついき、神奈川の浦賀の釜飯を板前に勉強させたのだという。
室戸の店の目の前は海である。
豊穣なる海の幸が、毎日のように揚がって来る。
それらを使った釜飯は珍しく、一躍人気の店へとなった。
メニューを開けると、釜飯の品書きが4種類ほどあるが、ここは室戸ならではの釜飯を食べなくてはと、「金目釜めし」と「ながれ釜めし」を注文した。
「ながれ釜めし」とは、高知で「ながれこ」と呼ぶトコブシを炊き込んだ釜飯である。
釜飯が炊き上がるまでの間につまもうと、珍しい「浜あざみの天ぷら」も頼む。
これがまた素晴らしかった。
はまあざみは、海岸の砂地に生えるキク科アザミ属の植物で、柔らかい若葉と茎などを食べる。
からりと揚がった天ぷらを食べれば、細いフキのような食感で、しゃくしゃくと痛快で、食べていくと微かな牛蒡風味とツンとした香りが広がる。
これは天ぷらに向いている。
こいつとビールをやれば永遠に箸が止まらないだろうなあ。
そんな妄想をしていると釜飯が運ばれた。
まずは、「ながれ釜めし」蓋を開ける。
その瞬間、潮の香りが立ち上った。
むんむんと室戸の海辺の香りが顔を包む。
食べれば、その潮の香りと牛蒡の香りが入り混じって、食欲を刺激する。
さっきまで、あれほどご飯ものを食べてきたというのに、俄然箸の速度が増していく。
室戸の海に生息するながれこは海藻だけを食べているので、一層潮の香りがするのだという。
昆布と鰹節の出汁で炊くご飯に、ながれこの肝も混ぜているので、そのかすかな苦味もクセになる。
この釜飯で酒が飲めちゃう感じである。
さしずめこの釜飯は、たくましい、日焼けしたやんちゃ坊主といった感じがある。
それに比べて「金目鯛釜飯」は、色白のお嬢さんといった趣があった。
あっさりとした淡く品ある甘みがひろがって、心が暖かくなる味である。
途中で身をほぐしてご飯に混ぜてみたが、この食べ方が断然いい。
金目鯛の優しい甘みとご飯の甘みが抱き合って、思わず笑みがこぼれる。
15分強火でふかして、ご飯が膨らんできたら蓋をし、蓋をする段階で金目鯛を入れて3分くらい蒸すのだという。
金目鯛は捨てるところがないので、中骨の身を焼いてほぐしたものもいれ、室戸の海洋深層水で炊いていくという。
だからこそ、味に深みがあるのだろう。
何よりこの釜飯、米がうまい。
聞けば、地元滝浜の米で、綺麗な水と空気で育ち、農薬もほとんど使っていない米ということである。
室戸の豊かな海の幸と里の健やかな米が出会ったこの釜飯こそ、都会では出会うことのない真の贅沢である。
心を豊かにし、体を清め、大地と海に感謝の気持ちが湧き上がる、贅沢である。
高知県室戸市室津「釜飯 初音」にて