グルメ
中華をつまみに食べて飲める夜中華「チャイナバル茂」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記
この情報は2021年12月19日時点の情報となります。
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす美食おじさんことマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は、女将のゆみ姉が繰り出す高知の田舎料理の数々を「龍の膳」でいただいてきました。
「もう、笑うくらい作ったき」。
ゆみ姉さんは、そう言って、笑った。
「龍の膳」は、日本料理屋である。
鰹のたたきを始めとして、料理人が作った割烹料理が多くある。
だが常連客の目当ては、他にある。
ゆみ姉こと、女将さんである永森由美さんが作ったお惣菜、古くから高知で「おばあ」が作って来た郷土料理である。
高知の人に言わせても、「もう作っている人はおらん」という料理であるという。
「恥ずかしいわあ」
ゆみ姉はそう言いながら、お惣菜を運んできた。
一口食べて、体から力が抜ける。
どれも初めて食べるものなのに、懐かしい。
ご飯のおかずだから、どれもご飯が恋しくなるように、濃く甘い。
だが優しい。
毎日食べても飽きない、力強さと優しさがある。
それゆえに懐かしさがよぎるのだろうか。
それでは一品ずつ紹介しよう。
「チャーテの白和」。
はやとうり(写真右手に写っているのがそう)の白和えである。
塩を入れた熱湯に潜らせて氷水に落とす。
白味噌、豆腐、ねりからしを入れて混ぜる。
コンニャクとドンコも入っている。
「豆腐は裏ごしするんですか?」と聞くと
「しないしない。混ぜていくうちに擦れるから」と、ゆみ姉。
チャーテは豆腐の淡い甘みをまとわりつかせながら、シャキッと弾ける。
その潔い食感と、コンニャクとドンコの対比的な食感が楽しい。
普通の白和より甘みが強いのは、ご飯を食べさせたくさせる工夫だろう。
次は「鯨と田舎こんにゃくと大根とニンニク葉のすき焼き」が来た。
「すき焼きといったら昔はこれ。あるいは鯖の魚すきとか昔やっていた」と、ゆみ姉がいう。
鯨の濃厚な甘い脂と甘辛いすき焼きの味が合う。実に合う。
味が染み込んだ大根と高知の人間が大好きなニンニク葉の取り合わせもよく、様々な食感や香りが交錯して、これも大至急ご飯である。
次は「虎杖(いたどり)油炒め」と来た。
虎杖とは高知でよく食べられている山菜である。
少量の胡麻油と醤油、味醂で味付け、ゴマを振ったものだという。
元々、味が淡い虎杖が茶色に炒められ、輝いている。
「僕でご飯食べてください、酒飲んでください」と言っている。
いいな、この素朴さは。
お次は、「大根葉の油炒め」である。
ただ炒めたのではない。
葉の芯の硬いとこだけを叩いて、湯がいてから炒める。
油に生姜を入れて香りを出し、ジャコ天の細切りと一緒に炒め、醤油と味醂で味付けしたものである。
大根葉の青々しさがまだ生きていて、それが油のコクとよく合うのだな。
かすかに苦い葉と甘辛い味付けも合うのだな。
そこへ生姜の刺激わずかに効いて、爽やかになる点も心憎い。
ここまで食べてきて気がついた。
ゆみ姉のお惣菜は、どれも甘辛いが、やり過ぎていない。
本来の素材の味が伝わる味付けで、ピタリと決まっている。
長年の勘所が効いた、温かさがある。
だからただ珍しい、懐かしいではない。
温かさに惹かれて、常連客は頼むであろう。
ゆみ姉の笑ってしまうほど作った惣菜は、まだまだ続く。
高知県高知市帯屋1 丁目「龍の膳」にて